「少し削った「幸せなひとりぼっち」、ハリウッド感動もの風味」オットーという男 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
少し削った「幸せなひとりぼっち」、ハリウッド感動もの風味
偏屈親父が心を開く系映画が大好き。実際名作が多いと思っている。「恋愛小説家」「セント・オブ・ウーマン」「君を想い、バスに乗る」などなど。
そして本作のオリジナルにあたる映画(原作小説は未読)「幸せなひとりぼっち」(以下2015年版)もまた大好きな作品だ。だから本作を「これはこれ」として比べずに観ることがちょっと難しかった。したがって、感想の内容も偏ったものになることをご了承ください。
ストーリーは思った以上に2015年版に忠実だし、主演は最早説明無用のトム・ハンクスだし、不出来な作品になりようがないように思える。なのに何だか、冗長に感じてしまう瞬間があった。
一番の原因は、2015年版で描かれた主人公の過去について、妻絡みの話以外の部分がばっさり省かれていることだろう。
幼い頃の父との関係、その父の事故死、父から受け継いだ車好きとサーブへのこだわり、自宅の火事……これらは、見る側が彼の抱える人生観をより深く理解するためには重要なエピソードだったように思える。彼の心が何故頑なになったかもよくわかる。その深い理解ができてこそ、ラストの彼の死に一層心を揺さぶられるのだ。本作はこれらの要素をほぼ削った一方で、尺は2015年版より10分長い。だから単純に残された要素のそれぞれの尺が伸びたのだと思われる。妻との関係をよりじっくり描きたかったのかもしれないが、主人公の人物造形が薄くなり、テンポが悪くなったようにも見える。
こう振り返ると情報量の多い2015年版だが、詰め込み感があるかというと全くそんなことはない。全体的に台詞がとても簡潔な印象だ。それでいて常に飄々としたユーモアがあり、ウィットのあるやり取りも多く、軽快に物語が進んでいく。劇伴も必要最低限。
もうひとつは、主人公のルックスだ。2015年版でロルフ・ラスゴードが演じたオーヴェ(本作のオットーにあたる)は、かなりの中年太り体型で動きももっさりしている。頭髪は真っ白で薄く、59歳という年齢設定よりは(現地スウェーデンでの感覚はよく分からないが)だいぶ上に見える。また、強く言い過ぎた時は、謝りはしないものの、戸惑いややっちまった感をかすかに表情に出したりする。そのせいか、嫌味を言ったり悪態をついたりしていても怖さがなく、妙な可愛げがある。
トム・ハンクスのオットーは、見た目はラスゴードより役の年齢には合っているのだが、オーヴェを見た後だと滲み出るほんわか感や可愛さが足りないかなという気がしてしまう。それと、いい人や正しい人を演じるトム・ハンクスを見る機会の方が長年圧倒的に多かったせいか、オットーのいい人な面が見えた時のギャップ萌えが弱い。
ついでに言うと、若い頃の主人公と妻は2015年版の方がはるかにイケメンと知的美女のお似合いカップルで、回想シーンが眼福だ。
ちなみに若き日のオットーはトム・ハンクスの息子、プロデューサーはリタ・ウィルソン(ハンクスの妻)と、ハンクスは家族総出(?)で関わっている。
2015年版への礼を失しない範囲で、エピソードを削ったり劇伴を多くしたりして、ちょっと単純でこってりした(といっても、本作単独で考えたら多分全くくどくはないのだが)ハリウッドテイストにした感じか。
人とつながることの大切さやあたたかさ、といったテーマはきちんと伝わってきた。リメイクならではの新しい感動があるわけではないが、決して出来が悪いわけではないので、2015年版未見なら私のような雑念もなく十分楽しんで感動できるのではないだろうか。
でも是非、「幸せなひとりぼっち」の方も観てほしい。
ニコさんのレビューを読んで腑に落ちました。
オットーが偏屈になる理由が感じられず、元々の偏屈ジジイとしか思えなかったのですが、ばっさり切られていたのですね。
ついでに言えば、若い頃のオットーが魅力的じゃない。(大きな声で言えませんが)