「アクションに次ぐアクション。物語にアクション場面があるというより、もはやアクション自体が物語ります。しかも全てのアクションに、実に様々な工夫が凝らされているです。その完成度と迫力に驚かされました。」ジョン・ウィック コンセクエンス 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
アクションに次ぐアクション。物語にアクション場面があるというより、もはやアクション自体が物語ります。しかも全てのアクションに、実に様々な工夫が凝らされているです。その完成度と迫力に驚かされました。
平穏な暮らしを求める元殺し屋が、愛犬を殺されたことから修羅と化してロシアン・マフィアを皆殺しにするという2014年の「ジョン・ウィツク」からはや9年、憂いをたたえた愛犬家キアヌ・リーブスが暴れまわるシリーズも4作目。今回は、裏社会のルールを破ったため、世界中から狙われ、彼と組織とのワールドワイドな激闘が描かれます。
本作で、ファンの夢が一つ、かないました。アクションの歴史を背負う3人の共演が実現したのです。リーブス、ドニー・イェン、そして真田広之。ただ顔をそろえたわけではありません。スタント出身のチャド・スタエルスキ監督が目指したのは、世界最高峰のアクション。そこに向かって三つの歴史は重なり、壮麗な「頂点」を作り上げたのです。
■ストーリー
裏社会の掟を破り、粛清の包囲網から生還した伝説の殺し屋、ジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)。地下に身を潜め、全てを牛耳る組織:主席連合から自由になるために立ち上がるのでした。 組織内での権力を得た若き高官ヴィンセント・デ・グラモン侯爵( ビル・スカルスガルド)は、聖域としてジョンを守ってきたニューヨークのコンチネンタルホテルを爆破、ジョンの旧友でもあった盲目の達人ケイン(ドニー・イェン)を強引に引き入れ、ジョン・ウィック狩りに乗り出すのです。そんな中、日本の友人、シマヅ(真田広之)の協力を求めてジョンが大阪のコンチネンタルホテルに現れます。果たしてジョンは、かつて忠誠を誓った世界との決着をつけて、真の自由を手にすることができるのでしょうか?
■解説
一作ごとに肥大化、長尺化してきた本シリーズ、今回は何と2時間49分。もちろん見どころはキアヌが群がる敵と戦うアクションです。しかしそのベクトルはリアルな臨場感を追求した「ミッション:インポッシブル」シリーズとは対照的。銃や刀剣、格闘術を合体させ、エキゾチックなまでに華麗な様式美を極めたアクションの博覧会であり、もはやストーリーの流れや登場人物の感情は二の次となっています。いくらクオリティーが高い見せ場もここまで長いとありがたみも薄れます。ただ、仏サクレクール寺院の長大な階段での攻防など、遊び心あふれる仕掛けに目を奪われました。
今回、ウィックは真田が演じる旧友シマヅを頼って、大阪に現れます。そこは裏社会の拠点として世界各地にある殺し屋御用達の「コンチネンタルホテル」の一つ。シマヅは大阪の支配人です。ウィッグをかくまっていることがばれ、ホテルを大勢の殺し屋たちが襲撃します。
その中にはイェンがふんする盲目の刺客ケインもいて、ウィッグを付け狙うのです。
忍者、力士、ヤクザ。幻想のニッポンを体現するシマヅの部下たちが、弓矢や日本刀で殺し屋軍団の銃撃と激突します。そしてシマヅとケイン、つまり真田とイェンが、刀を交えるのです。そこからは、アクションに次ぐアクション。物語にアクション場面があるというより、もはやアクション自体が物語ります。しかも全てのアクションに、実に様々な工夫が凝らされているです。その完成度と迫力に驚かされました。
東映アクションで真田が見せてきた、伸びやかでスタイリッシュな動き。リーブスがシリーズで進化させてきた、銃撃と柔術などの格闘技を融合させたトリッキーな「カンフー」。香港クンフー映画を代表するイェンの中国武術。日、米、香港のアクション映画を担ってきた3人が、それぞれの歴史を感じさせつつ、見せ場を作り上げます。そこに犬を連れたスナイパーや、巨体の殺し屋らが絡むのです。
■感想
…というような粗筋は、実はどうでもいいのです。シマヅのホテルを急襲するケインは盲目の殺し屋であり、仕込み杖を振るいます。それはイェンが敬愛する勝新太郎の「座頭市」シリーズに捧げるオマージュでといえるのではないでしょうか。スター・ウォーズ・サーガに出演したとき以上に、本気の「座頭市」ごっこを楽しんでいるように見えました。
舞台はパリ、ベルリン、NY、大阪とアクションも超過激にスケールアップ。世界を舞台にしたスケール感やセットの豪華さ。裏社会の奇妙なルール。弾丸を通さないスーツなど小道具の面白さ。見どころは多いですが、それらは全て、アクションのためにあるのです。すごすぎて、時には笑ってしまいますが、同時に感動もさせられます。
シリーズの底流にあった和風好みを本作でも全面展開。対戦相手への敬意と信義といった“武士道精神”、柔術や合気道、空手に相撲まで交えた格闘技。アジアの両雄、真田とイェンの一騎打ちはシリーズ最大の見ものでしょう。ただ、なんちゃってニッポン的なセットはジョークか勘違いでしょうか。大阪のホテルに浮世絵の壁画、よろいの飾り物、相撲取りが警備員という魔訶不思議な日本描写には失笑しました。
パリの凱旋門のロータリーでは、すさまじいカーアクションが繰り広げられます。サクレ・クール寺院へと続く長い階段では、ウィッグが戦っては転げ落ち、上ってはまた戦う。スタントパフォーマーの原点であり、危険な「階段落ち」が延々と繰り返されるのです。アクションへの純粋な愛を感じて、胸が熱くなりました。それは、映画への純愛といえるのではないでしょうか。
■最後にひと言
真田広之やドニー・イェンヘの敬意を隠さないキアヌ・リーブス。キアヌはドニーと共演し、拳を交わせる幸運を純粋に喜んでいるように見えます。
キアヌにとってはこの映画はドニー・イェンとのアクションがすべてであり、それがいつまでも続いてくれと祈っているようにさえ見えるのです。だからキアヌが最後の決闘の舞台となる教会までの長い階段を一歩ずつ、襲いかかる敵を倒しながら登っていくが、あと一歩のところで足を踏み外して派手な階段落ちをくりひろげるのも、この楽しい撮影を止めたくないというドニーとキアヌの思いが生みだした延長時間なのかもしれません。