「前半は退屈地獄、後半は爆上がりの大傑作アクション」ジョン・ウィック コンセクエンス クニオさんの映画レビュー(感想・評価)
前半は退屈地獄、後半は爆上がりの大傑作アクション
さて、本作の画面内だけでいったい幾人の殺人が行われたでしょうか?戦争とか爆撃を除き、娯楽映画において記録的な死者数なのは間違いない。主人公がそれこそ1人ずつ1人ずつ正当防衛で応戦してゆく、その気になればカウント出来るアクションで、殆ど漫画の世界です。しかしこのボリュームと質が凄い、ちょっとこれはアクションの革命では? 前半はやたら切った張ったの殺し合いシーンが延々と長々と繰り返され、ド派手ステージでも次第に瞼の重さに耐えきれず・・。ですが、大阪・ベルリンと壮絶アクションを経て、いよいよのパリに入ってからが凄い、実に凄い、眠気も吹っ飛び一挙に評価も爆上がり。
いよいよの落とし前、決着をつけるべく決闘のクライマックスへ。
①エッフェル塔を臨むシャイヨー宮での事前会議。あの観光地でよくぞ撮ったり。クランシー・ブラウン扮する告知人が仰々しく決闘の段取りを決める、翌朝日の出の06時03分に、遅れたら即刻死と。
②エトワール凱旋門を取り囲むロータリーでの壮絶アクションにはドキモ抜かれました。激しい交通量のど真ん中で、無論CGを駆使しなければ到底無理な激しいアクション。グラモン侯爵の命による怒涛の暗殺者の群れが決闘に行かせまいとジョナサンを襲撃する。当然に車に跳ね飛ばされ、ひき殺され、無論ジョナサンは死ぬはずがないけれど。
③建物内がこれまた圧巻。真上から見下ろすショットでのワンカット長廻しのあり得ないアクション。特殊銃で激しい火花とともに被弾すると一瞬で炎に包まれる。これを天井の壊れた廃墟の設定で次々とジョナサンとともに部屋移動、バタバタと敵が倒れる延々と。余程の緻密なセッティングが無ければ全く不可能なシーン、しかも長い。
④寺院へのフォワイヤティエ通りの近道に設けられた220段の階段歩道。早く駆け上がらないと決闘時間に間に合わない、なのにおぞましい数の敵が待ち受ける。途中からはドニー・イェン扮するケインも応戦に加わり、切って殺して階段を転げ落ちる。とんでもなく危険な撮影で、やっと階段上まで登ったと思った瞬間、ジョナサンは突き落とされ220段を転がり落ちる。キアヌ自身で相当に演じてるのが凄い。スタントマンだって②や③で殺され役を演じて尚ここでも登場、ふと顔が見えた時あれさっき殺されたスタントマンに似ていると。普段はモンマルトルの雰囲気濃厚な名所での夜間ロケーションは壮絶だったことでしょう。
⑤サクレ・クール寺院。やっと決闘会場へ、まるで古代ギリシャ劇のステージよろしく様式美たっぷりに寺院を背景に描く。手前は下に向かう階段で、ほとんどオペラでしょう。満身創痍のジョナサンも遂にここで致命傷?を負い、決闘に勝利したものの階段半ばで崩れる。
ここまで見れば観客のボルテージも沸点です。
キアヌ・リーブス扮するジョナサン(ジョン)は決闘の前に、ローレンス・フィッシュバーンらの支援側から防弾スーツなるものを提供され、死に装束か祝の衣装かとして提供される。ならば全身覆うものをこの生地で作ってくれればいいものを、激しいアクションの最中に片手でスーツの襟を立てて防御するくらいなら、と思いますよね。こと左様に突っ込んだらキリがない。巨大ディスコの真ん中で殺人がド派手に行われていても、なんら支障なく踊り狂っているのですから。そうゆう作品です。
もとよりクンフー・スタイルの生身アクションが売りの本シリーズ。ハリウッドのトップスターにも関わらず積極的に自身で取り組むのが評価されている。大阪のホテル・コンチネンタルの巨大セットでの連続アクション、続く真田広之演ずるシミズとカンフー・スターであるドニー・イェン扮するケインとの死闘、さらにベルリンでのディスコでの一大乱闘。それぞれ工夫があり見所満載でしょうが、いかんせん一本調子となり、正直飽き飽きが前半の実態。2時間49分は流石に長い、前半をもう少し切り詰めればね。
ドラマなんてどうでもよろしいとは言わないが、ひたすらアクションの潔さ。本シリーズのチャド・スタエルスキ監督さんは、調べたらスタントマン出身で「マトリックス」でキアヌのスタント担当とは、長い信頼関係があってこそ。それにしても全編スタイリッシュな様式美で統一、ギトギトなネオンとごちゃごちゃカオスが欧米人の求める日本像なんですから、手裏剣が登場しても驚く必要はありません。さらに本作は音響が素晴らしく、ほぼ全編ディスコのビートが良いセンスをしてますね。
真田広之もドニー・イェンも60歳ほどであの切れ味は素晴らしい。ローレンス・フィッシュバーンは僅かな出番ですが流石の威圧感。なにより本作のヒールであるビル・スカルスガルドの狂気がなければ本作は成り立たない。30歳そこそこで長身をエレガントな装いでまとめ、独裁ぶりをキレイにまとめるなんざ、立派なものです。兄アレクサンダー・スカルスガルドそして父ステラン・スカルスガルドと、長身の堂々たる体躯で確かな存在感のスター一家です。
「妻のために生きた」と墓標に記されたジョンですが、さて「5」は? きっとあるでしょう、もうすぐ還暦のキアヌ・リーブスがその気なら。実際スピンオフ作品として「バレリーナ」のタイトルでジョン・ウィック役をキアヌが演じ、2024年夏に全米公開と記されてますから。