「それだけで美しい学問」不思議の国の数学者 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
それだけで美しい学問
天才数学者ハクソン役のチェ・ミンシクが何よりピカイチで良かった。日本だったら誰が演じたらいいんだろうと思いながら見てました。
数学が武器製造に使われる北への批判、数学が進学や就職の手段として使われている南への失望。境界を越えてやって来た南、でも南の学校では富める者とそうでない者とを分かち排除する境界があることをハクソンはジウを通して知る。ジウとの出会いは亡くした息子と数学との出会い直しに繋がったのだろうか。πのピアノ曲、美しかった。
学校の最後のシーンは「セント・オブ・ウーマン」のパチーノだった。ジウは答えでなく過程の大事さ、今日ダメでも明日また頑張ればいいんだ!という希望と前向き姿勢を身につけて数学を専攻する大学生になった。
ハクソン先生はドイツの研究所に行った。物理にせよ化学にせよ、政治・軍事に使われた苦い辛い歴史を持つドイツは正面からそれを受け止め決して忘れないようにしている。とても意識している。だからハクソン先生の行き先がドイツで、ハクソン先生を受け入れたのがドイツということが私は腑に落ち嬉しかった。ドイツもかつて東西を分断する境界があった。そして今も東西の間に心の壁や格差の壁がある。
数学に憧れながらまるでダメで数字にさえも怯える私は憧憬の思いでこの映画を見た。英語タイトルのPrime「素数」も悪くないし、ハングルと日本語のタイトルは同じでこれも素敵。韓国のすさまじい学歴社会には吐き気がした。学力や思考力どころか見栄やブランドが相も変わらず重視される日本社会にはもっとがっかりする。
おまけ 1)
イチゴ牛乳ってドイツにもあるのかー?と疑心暗鬼でしたが、何と!調べたらありました。疑ってごめんなさい。
おまけ 2)
ハクソン先生が行った研究所はドイツはバーデン=ヴュルテンベルク州にあるOberwolfach数学研究所。1944年に設立。客員研究員の7割以上がドイツ国外からの研究者で占められていて、毎年約2500名もの数学者が世界中からこの研究所を訪れてワークショップなどに参加しているようです。ドイツの他の色々な研究所と同様、緑豊かな自然に囲まれた素晴らしい場所にあります。
数学はおもしろいと思う人は多いでしょうが、ほんとうに「美しい」と思える人は幸せですよね。
小説ですが、「ペトロス伯父と「ゴールドバッハの予想」」という本があります。(たぶん)廃版になっていて、手に入りにくいのですが、探せば図書館には所蔵しているところがあります。隠れた名作なので、探してでも読む価値がありますよ。
そうなんですよね!
算数として計算しちゃいけないってどんだけ意地悪なっ!て思ったんですが、確かに主人公に小学生の問題出してもね…という感じで妙に納得しつつもやられた気分でした。
なるほど❗️ドイツでも相互に密入国(密出国?)はあったのか。
自分のいる側の体制のほうが素晴らしいはず、逆方向はないはずという決めつけもいけないし、家族の事情で否応なく、というひともいたはずですよね。