「映画にするには物足りない。でも夢を見ているかのような感覚。」岸辺露伴 ルーヴルへ行く NandSさんの映画レビュー(感想・評価)
映画にするには物足りない。でも夢を見ているかのような感覚。
前提として
・実写ドラマ版『岸辺露伴は動かない』はシーズン1~3まで視聴済。
・アニメ版『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』『岸辺露伴は動かない』は未視聴。
・原作『岸部露伴 ルーブルへ行く』は未読。
2時間まとめて観るには少しきつい。
構成とカメラワークが、"映画"という規模に合わせられなかったのが大きな要因だと思う。
まずは構成。前半中盤から前半終わりまでずーっと回想編。まだルーヴルに行かない。「さて、行こうか」みたいな描写も挟まる前だから、めっちゃダレる。
結果的に余分なシーンが多いようにも感じてしまった。ただすごく大事なシーンだし、奈々瀬の雰囲気もクラッとするぐらいに良い。だからこそもったいなさを感じる。
そしてカメラワーク。観たいものを焦らしてくれない。なんか視えてしまう。逆に暗すぎて詳しく観たいところが視えない。表情や雰囲気の映し方は良かった分、引っ掛かってしまった。少しドキュメンタリー風に撮っている節があったのかも?
このキツさを考えると、1時間×2話という構成でSPドラマにした方が良かったのではないか、という考えに至ってしまう。
実際、前半と後半で主要人物は大きく変わるし、回想編とルーヴル編といった感じで雰囲気もガラッと変わる。『~ルーヴルへ行く』と題しておきながら、なかなかルーヴル美術館に行かない気持ち悪さも解消されるのではないだろうか。ちょうどよい切れ目も作れるはず。
個人的な欲張りを挙げると、探偵ではなく"漫画家"としての岸辺露伴がもっと観たかった。青年期ではなく、本業として漫画を描いている岸辺露伴。後半の推理劇は『岸辺露伴は~』の持ち味だが、"岸辺露伴"というキャラクターの持ち味ではない。
大きく二つ気になった点を書いたが、良いところはたくさんある。
まずは役者陣の演技及びキャラクター。岸辺露伴(高橋一生)&泉京花(飯豊まりえ)コンビはもとより、妖艶かつ朧げな雰囲気を放つ奈々瀬(木村文乃)、それに魅了される若かりし岸辺露伴(長尾謙杜)。ルーブル編では、短いながらも強烈な印象を残したエマ・野口(美波)、なんか胡散臭くて人間臭くて嫌いになれない辰巳隆之介(安藤政信)。そして今シリーズお馴染みの二人(中村まこと、増田朋弥)。
それぞれの人物描写が細かく描かれている。登場シーンが短いキャラも居るものの、みな繊細かつ強烈。無論、岸辺露伴と泉京花の深堀りもなされている。この要素はシリーズファン必見。
次に雰囲気。これが本当にすごかった。『岸辺露伴は~』の世界観。夏のジトッとした空気。Z-13倉庫のべっとりした何かの気配。全体が夢のようでいて、でも恐怖が現実として常にある感じ。
音楽のここぞ、と言う使い方もキマッていたのだろう。(前述した通り、)観たいものは観れなかったが、絵になるシーンがいくつもある。まるで絵画。ルーブルに飾ってもらうべきか。
ファンサもいくつかあった。原作を読み込んでいるファンならもっと小ネタ見つけられたんだろうなぁ……。
こんな感じで、2時間の映画にするには物足りないが、『岸辺露伴は動かない』シリーズの集大成としてはかなり良かった。そんな作品。テレビとかPCで観るのをオススメします。