「これ凄い作品だと思った。」映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ あおぞらさんさんの映画レビュー(感想・評価)
これ凄い作品だと思った。
寓話としてアレンジされているとはいえ、
日本が斜陽になり衰退していく今の今まで
少女の成長や若者の恋、女性の自己肯定などといった
今更どこを掘り返しても陳腐にしかなりえない題材を馬鹿の一つ覚えみたいにトレースし続けていたこの国のエンターテイメント、ひいてはこの社会全体が直視を避け続け、まるで生ゴミを捨てるかの如くに徹底的に栓をし、何もない事にし続けてきた重いテーマに光を当て、そこに生きる人の痛みや孤独に寄り添おうとした稀有な作品じゃないかと思った。
創作物の中であえて弾かれていたモノを扱う限り、
ありきたりのファンタジーになりえるはずはない。
単調な工場労働、次第に厳しくなるノルマ、飽和する製造品、そして消耗していく自尊心。
どれもパステルカラーの優しい世界にはそぐわない要素であり、
生々しい現実の匂いがする。
大人であろうと子供であろうと不都合な現実を直視する事は例外なく痛みと恐怖を伴う。
拒否反応が出るのは当然。
他のレビューの傾向を見れば全くの想定通り。
そのような社会の苦しみを他人事と出来る人にとっては、
社会の恩恵を享受しつつもその痛みを共有していない引け目ゆえ
「説教」に映るだろう。
そして赤の他人が負う痛みをわざわざ理解する義務もない。
彼らにとっては社会から許された当然の権利を主張しているに過ぎないし、
それについて是非を問う気もない。
ただ、子供の見る作品にそんなものは不要という意見については、
それは違うんじゃないかなと。
綺麗におさまってよく出来ただけの物語なんてすぐに忘れてしまう。
こういう作品があっていいし、
むしろ存在するべきものだと個人的には思います。
個人的なことを言えば、
子供の頃、見終わった後に心の中で何かが燻る作品は、
心の中に大切なものとして今も残っている。
長々書いちゃったけど、
言いたい事はただこの映画が好きなんですって事。
すみっこはとてもやさしいよ。
表面だけをやさしく撫で、他人の哀れをその場限り味わって
いい人のままどこかに行ってしまうライトな「やさしさ?」じゃない。
彼らは踏み込んで、自分の深い傷を見せ、そして強く手を握り、
大切な人を自分たちの世界へ引き寄せていく。
街にあふれかえってる思い上がったナマモノの群れに
何一つ期待も愛情も抱けない人の乾いた心に届いてほしい作品。