「本を媒介として成立する豊かさと隠された反骨と」丘の上の本屋さん penさんの映画レビュー(感想・評価)
本を媒介として成立する豊かさと隠された反骨と
ゴミ箱から本をあさって売りに来る人、お金がなくて買えないけど本が大好きで医者になることを夢見る移民の少年、希少本を探しに来る大学教授、こだわりの本を探す人・・・・年老いた古書店主は、それらの人に対し、分け隔て無く接し、そのすべての人と、「本」を媒介として、そのそれぞれに応じた関係性を結んでゆきます。
つまり「本」と「自分自身」の1対1の関係で与えられた豊かさだけではなく、多くの人とその豊かさを共有することで得られる新たな豊かさとでも言ったらよいでしょうか。豊かさに広がりが出ている点がまた素晴らしいと思いました。あたかも本の言葉の種が伝播して、多くの実を結ぶように。
「ピノキオの冒険」「イソップ寓話集」「星の王子さま」「白鯨」を巡る少年との対話も良かったですが、面白いなと思ったのは、取り上げられている本が権威主義に反対しているものが多かったこと。ムッソリーニに反抗して監禁された詩人の著作やローマ教会から破門されたガリレオなどの「発禁本コーナー」だけでなく、ユダヤ教会から破門された反骨の哲学者スピノザや、マルクスの著作などなどの「哲学書コーナー」も(「誰も読まなくなったから多い」というのが笑えました)。
イタリアでは、その地理的な要因から、アフリカからの難民の窓口のようになっていて、不法移民問題が深刻となっているようで(外国人比率は日本の2.7%に対し10%を超えているそうです。)、昨年ついに、ムッソリーニにも肯定的な極右政党を中心とする連立政権が成立したようです。本作はその前年にイタリアで公開された作品ということになります。
店主が最後に少年に渡した本も、そう考えると意味深く感じられます。