「猫鍋ゴジラ、可愛いよ。ただまぁ…。」ゴジラ×コング 新たなる帝国 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
猫鍋ゴジラ、可愛いよ。ただまぁ…。
圧倒的な強さを誇り地上世界の調和を乱す怪獣を駆逐するゴジラ、地底世界で生活し新たな脅威に遭遇するコング、そんな両者の間を取り持つ為復活したモスラと、人気怪獣達の描写の数々は流石ハリウッドと言えるクオリティー。そこに昭和ゴジラシリーズ的なヒーロー映画としてのノリも加わって、本作はさながら令和の「東宝チャンピオン祭り」。
『キング・オブ・モンスターズ』では出番の少なかったモスラの活躍シーンが多かったのは嬉しかった。
人間的な感情表現の出来るコングの視点を通す事で、怪獣に感情移入して物語を楽しめるという点は、本作最大の評価ポイント。
基本的に、怪獣映画は意思疎通の図れない怪獣達の姿を人間ドラマと絡める事で物語を進めなければならず、怪獣と人間両方を描かなければいけない都合上、人間ドラマは淡白になりがち。しかし、本作はコングの視点によって物語が進む為、最早人間ドラマなど不要と言わんばかりの大胆なアプローチで物語を楽しめる。人間ドラマと怪獣を上手く絡めて展開していた『ゴジラ-1.0』とは正反対。清々しい投げっぷり。
しかし、本作はモンスター・ヴァースが抱える最大の問題点も明確に示された作品である。それは、ラスボスとなれるだけの圧倒的なカリスマ性や強さのある敵怪獣の不足だ。既にキングギドラやメカゴジラという強力な敵怪獣を消費してしまっている為、わざわざゴジラとコングがタッグを組む程の強敵がいるのか?と不安に思っていたが、それが的中する結果となってしまった。
本作で登場した新怪獣スカーキングは、暴力で他のコング族を支配しており、同じく新怪獣のシーモを従えて、地上世界への進出を目論む。しかし、一挙手一投足が小物染みており、案の定ゴジラの熱線と真っ向勝負出来る技や武器が無い為、前作のコングと同じく熱線を喰らわないように逃げる事しか出来ず、コングとの同族対決すら決してコングに勝る強さを示したと言える程でもない。
そんなスカーキングに代わってゴジラを相手取れるようデザインされたと思われるシーモは、熱線のゴジラに対して冷凍光線、かつて地球に氷河期を齎したとされる程の強力な怪獣として登場する。
四足歩行と氷柱のようにも見えるクリスタル状の背鰭は、どこかアンギラスを彷彿とさせるが、これはファンにとってはちょっと嬉しくなる設定だ。というのも、かつて金子修介監督による『ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃』でキングギドラが担当した枠の護国聖獣のボス枠として当初予定されていたのは、背中に氷の棘を持つという設定を付与されたアンギラスだったからだ。
残念なのは、そんなシーモの強さを示す描写が映像的に不十分だった点だ。スカーキングに無理矢理服従させられている、所謂囚われのヒロイン枠(設定上ではメス)でもある為、ラストバトルでパワーアップしたゴジラに派手に倒させるわけにも、痛々しく負傷させるわけにも行かない都合上、語られている強さに対してマイルドな描写ばかりで、結果的にゴジラがあそこまでしてパワーアップする必要があったのかと疑問を抱いてしまう。不憫属性を付与されている点やアンギラスを彷彿とさせる見た目では、ラスボスとしての威厳も乏しい。
そんなイマイチ迫力に欠ける敵怪獣チームが相手では、せっかくのラストバトルも盛り上がりに欠ける。また、戦闘時間や描写自体も短く淡白だったように思う。
せっかくパワーアップしたゴジラ・エヴォルヴの強さも、コングとのドタバタ再戦でピラミッドを破壊していた時の方が強そうに見えてしまったのは残念。また、ラストで余程お気に召したのか、1回目より姿勢良くコロッセオで丸まって眠るゴジラの姿は、KOMでギドラを倒して他の怪獣達を跪かせた絶対王者の姿としてはあまりにも滑稽ではある。可愛いらしいのは否定しないが…。
元々、ゴジラの物語はKOMで完結しており、前作でのコングとの夢の対決を経てシリーズからは退場し、本作はコングメインの物語になる予定だったそう。しかし、東宝からのゴジラの使用期限が切れていなかった、コング単体よりゴジラもいた方が興行的にも良いと加えられたそうで、そういう意味では本作でのゴジラの添え物的な扱いも納得ではあるのだが。
ただ、本作の興行的な大成功によって、今後もモンスター・ヴァースが存続していく以上、圧倒的な強さを誇る敵怪獣が必要なのは間違いない。
KOMでキングギドラ、前作でメカゴジラというメジャー所を使ってしまった以上、この先ゴジラやコング(+シーモ)を相手に戦えるのは、デストロイアかスペースゴジラ、ゲーム作品に登場したバガンくらいのチート級の怪獣しかいないだろう。勿論、ハリウッドがオリジナルの新怪獣を用意する事もあるだろうが、いずれにせよ、次回作ではゴジラやコングを圧倒するような魅力的な敵怪獣の登場に期待したい。