劇場公開日 2023年7月28日

「今回は銭湯スペクタルばかりでなく、紫夏の自己献身が感動的で人間ドラマとしても充実していました。」キングダム 運命の炎 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5今回は銭湯スペクタルばかりでなく、紫夏の自己献身が感動的で人間ドラマとしても充実していました。

2023年8月6日
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鑑賞方法:映画館

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本作の原作は、紀元前、中国春秋戦国時代を舞台に、天下の大将軍になるという夢を抱く戦災孤児の少年・信と、中華統一を目指す若き王・嬴政を壮大なスケールで描く漫画「キングダム」(原泰久/集英社)。2006年1月より「週刊ヤングジャンプ」にて連載を開始し、現在までに単行本は69巻まで刊行され累計発行部数は9,900万部(2023年7月時点)を記録するも、その壮大なスケールから長らく映像化は不可能と言われてきました。
 ところが2019年にこの原作の映画化に挑戦した映画『キングダム』は、公開されるや興行収入はその年に公開された実写邦画作品の中で1位を獲得。映画館のスクリーンを通して数多くの熱いファンを生み出してきました。本作は、シリーズの3作目にあたります。 本作では原作の侵攻してきた敵国・趙との戦いを描いた「馬陽の戦い」と後に秦の始皇帝となる政(吉沢亮)が中華統一老目指す発端の物語となる「紫夏編」が描かれます。

 チェン・カイコーの「始皇帝暗殺」(1998年)でも、チャン・イーモウの「HERO」(2002年)でも、始皇帝は不可侵の存在として描かれてきました。一方、今作の面白いところは、13歳の若さで王位についた政の脆弱な地位と苦悩に満ちた姿が描かれるところ。あわせて、そんな弱い政がなぜ王位につき中華統一を目指すのかという原作のテーマに迫るところです。それは強大な敵趙との闘いの前に、大きな意味を持つことになりました。
 始皇三年2月、秦は20万の軍勢が韓に侵攻。しかし秦国への積年の恨みを抱く隣国・趙は、その隙をついて趙三大天・龐煖(吉川晃司)を総大将に12万の軍勢が馬央、そして馬陽に侵攻するのです。残忍な趙軍に対抗すべく、秦王・政(吉沢亮)は長らく戦から離れていた伝説の大将軍・王騎(大沢たかお)を総大将に、蒙武(平山祐介)を副将に10万の軍勢を派遣します。
 王騎は出陣前に、政に昭王の遺言を伝えます。その言葉で、国の存亡危機の闘いを前にして、疑心暗鬼となった政は、趙の人質となっていた少年時代のことを思い出して王騎に語るのです。
 妻子をおいて先に趙を脱出していた父荘襄王が太子となり、次期太子となった政をひそかに秦に戻す計画が立てられます。脱出に命を賭して力を貸すのが闇商人の紫夏(しか・杏)。紀元前260年、長平の戦いで秦が趙の捕虜40万人を殺害したことから、趙の市民の憎悪を浴びて育った政の凍った心を溶かす役割をも、紫夏は担うのです。
 趙の人質として深い闇の中にいた自分に、光をもたらしてくれた恩人・紫夏との記憶。 隠れて政の話を聞いていた信は、その壮絶な過去を知り、政の王となる志を心に刻み、想いを新たに戦地に向かいます。
 このとき王騎に呼び止められた信は、100人の兵士を率いる隊長になることを命じられます。王騎はこれに『飛信隊』という名を授け、飛信隊に2万の軍勢を率いる敵将を討てという無謀な特殊任務を言い渡すのでした。

 そして両軍は乾原で開戦します。秦左軍は趙右軍の将・馮忌(片岡愛之助)の策により大損害を出します。そこへ飛信隊が王騎の特命を受け、馮忌を討つべく趙右軍の側面に突撃、守備隊を突破し馮忌本陣に迫ります。さらに秦左軍の将・干央(高橋光臣)と千人将・壁(満島真之介)も反撃に出たことで本陣一帯は乱戦状態となり、信はその隙を突いて馮忌に迫るのでした。

 1作目は挑戦的な実写化。2作目で初めて(本格的に)戦場が描かれた。3作目の本作はドラマと戦場を組み合わせ、ハイブリッドな仕上がりになっていました。
 ワイヤーアクションなどで大胆に誇張された戦闘シーンも、3作目で大分慣れてきて、大きなスクリーンで見ると違和感なく楽しめるようになってきました。
 原作者の原さんが、注目する点としては、信を演じる山崎賢人の成長ぶり。100人の兵を束ねる立場になった信。そして人数的には圧倒的に不利な状況の中、敵国・趙と戦いを繰り広げる点で、前作以上に見せ場が増えた役どころを前に「見えないところで努力し、肉体改造して臨まれている。体が説得力を持ち、顔つきも男らしく、よりカッコ良くなりました」と大いに評価していました。
 もう1人の主人公というべき存在が、政であり、政を守る紫夏の存在です。紫夏を演じる杏について原さんは「まさに原作の紫夏です。母性、愛情、自己犠牲を見事に演じてくださった。吉沢さんの演技も素晴らしく、お互いの相乗効果で熱いドラマになった」と大満足だったようです。

 紫夏の献身は、映画第1弾で政の身代わりとして死んだ漂(吉沢亮の2役)と呼応します。スペクタクルな戦闘を売りとする今シリーズに、ようやく見どころのある人間ドラマが用意されました。
政と紫夏の逃避行の終盤、それぞれの表情に寄ったカットバックの連続で政が紫夏の意志を自身の魂へと刻みますが、2人を共に画角に入れ全体の状況を捉えたカットがないのです。俳優の美しい決め顔もいいですが、目撃者として大局を見せてほしかったです。
 軍議や後半の合戦は登場人物が多く、力関係を把握するには原作、前シリーズ、史記を追う必要があります。
 なお、本作は馬陽の戦いの前半で終わってしまいます。原作を読んでいる人なら、戦いの結末や王騎がどうなったのかご存じでしょうが、本作では続編に持ち越しとなりました。前後編となるのは、ワイスビやミッション・イン・ミッション:インポッシブルなど最近の大作の傾向となっています。

流山の小地蔵