「天下の大将軍へ信の名は、飛んでいく一本の矢の如し」キングダム 運命の炎 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
天下の大将軍へ信の名は、飛んでいく一本の矢の如し
第1作も第2作も実写邦画年間1位の大ヒット。
邦画の新たな“大将軍(人気シリーズ)”の座へ。
原作コミックやアニメシリーズは未見…なんて野暮はもはや言うまい。
邦画の域を超えたスケールと面白さがすっかりお気に入りに。
今回も期待の第3作目。
前作のラストで王騎将軍の元へ修行に向かった信。
その修行の内容とは、辺境の無法地帯の争いの平定。これを見事に治める。
その武勲により王騎将軍から百人小隊の隊長に任命。
奴隷の身分だった一人の若者が一つの隊を率いる隊長に…。つくづく本シリーズは、信の天下の大将軍へのサクセスと成長物語である。
信の隊長ぶりは追々触れるとして、惜しむらくはその平定の武勲がOPのナレーションだけという事。一本の作品にだって出来そうなのに。
しかし仕方ない。今回は他にも一本の作品に出来そうなエピソードだらけなのだから!
今回の大まかな話は前作と同じ。強大な隣国大軍の侵攻。
何だ、またか…と思うなかれ。前回とは訳が違う。
更なる強大な隣国…というのはお決まりのパターンだが、秦とは積年の遺恨あり。
趙。
かつて秦に大量虐殺された過去があり、その恨みを晴らす。
秦の攻め行った地の民を虐殺し、じわじわ都に近付いていく。都が落とされれば秦は…。
長らく趙には名だたる武将が居ないとされていたが、新たな武将が誕生していた。
総大将の趙荘。天才的な軍師でもある。副将は軍略と知略に長ける馮忌とかつての恨みから殺戮を繰り返す万極。
秦も趙も兵数に大差はないが、趙は名将三人に加え、訓練された兵たち。
一方、秦の兵たちは寄せ集め。名将たちも遠征中。
兵力の差は歴然で、名将不在。丞相・呂不韋の配下の蒙武がいるが、攻は強いが守が弱い。
秦に他に攻守併せ持った名将は…、いた。
言わずと知れたあの大将軍。王騎。
呼び掛けに応じた王騎は一旦側近たちを払わせ、今一度若き秦王・嬴政に問う。
中華を統一する目的は…?
憎しみや争いを断ち切る為。かつてもそう語ったが、そこにはある人との約束があった。
嬴政が語る過去。
その壮絶な過去に、密かに聞いていた信も…。
七年前。
趙に人質として取られていた嬴政。かつての恨みからその扱いは悲惨なもの。
そんな嬴政に救いの手を差し伸べたのは、闇商人の紫夏。
秦で祖父王が崩御し、父王が即位。いずれは嬴政が跡継ぎとして玉座に就く事になる故、秦への帰国が求められる。
が、趙が易々と生還させる訳がない。危険と隣り合わせの“裏道”で。それを買って出たのは、紫夏。
幾つもの難所を突破し、後もう少しで秦の援軍との合流地点という時、趙の敵襲。護衛は身を庇って倒れ、そして遂に紫夏も…。
命だけじゃない。帰国や後に王座に就く事を拒否していた嬴政。何故なら、人質の時に受けた暴行が原因で痛みも感情も感じない身体に。そんな自分が王になどなれるものか…。
苦悩する嬴政を癒したのも紫夏。
命も心も救ってくれた。今自分があるのは紫夏のお陰。彼女と、自分の為に死んでいった者たちの為に、憎しみや争いを断ち切り、中華を統一する。
自ら選んだ修羅の道。それは揺るぎない、強固な大義。
第1作でも王位を弟に狙われるなど、若くして波乱万丈の嬴政。彼にこんな壮絶な過去があったとは…。
前作ではあまり出番の無かった嬴政のドラマや背景を深く掘り下げ。
原作でも屈指の感動エピソードと言われ、人気キャラという紫夏を新参加の杏が熱演。凛とした強さ、逞しさ、美しさ、母性滲ませる優しさを魅せる。
人気エピソードに偽りナシ。胸打つ感動もあり、一本の作品に出来そう。
嬴政の覚悟と決心を改めて知り、此度の趙との戦の総大将を拝命する王騎。
お姉ぇ口調で異彩を放っていたものの、前2作共に傍観の威圧のみで本格的な見せ場に乏しかった王騎がいよいよ戦場に!
にしても、何故突然…? 長らく戦から遠退いていたこの男が…? 異端の人物とは言え、国の危機だから…?
否。
今回の主戦場は、馬陽。
そこは王騎にとって因縁のある場所だった…。
それを知るのは、王騎と昌文君のみ。
回想で僅かに描かれる過去の王騎と、何者か。そこで起きた事とは…?
挿入される程度だが、間違いなく次作へ繋がる重要エピソードやキャラ。これだって一本の作品に出来そう。
原作ファンにとっては物足りないのは言わずもがな。
尺が足りない、ダイジェスト的、前半はほぼ回想に当てられる…など。
現時点で3本作られているとは言え、大長編コミックを2時間強の尺に納めるのは至難の技。どうやったって根っからのファンから鈍い声が出るのはコミック実写の永遠の宿命。
それを如何に見せるか。この実写シリーズしか見てない邪道者から言わせて貰えるなら、見応えや見せ場を要所要所纏めていると思う。
嬴政と紫夏、王騎の過去など、話を盛り上げるのに充分であった。
さて、本シリーズと言ったら、邦画でも屈指の大スケールのアクション。
後半は期待の戦アクションがたっぷり描かれる。
作品毎に迫力が増していく本シリーズのアクション。
それはただスケールや迫力だけがインフレしているのではなく、見せ方も趣向を凝らして。
1作目は潜入チームプレー。前作はがっつりの戦場アクションに加え、その戦を動かす将軍たちの闘い。
あれだけの両大軍を動かして戦局を左右していたのは、たった二人の将軍。信にとっても、将軍や戦とは何かをまじまじと目の当たりにする事に。
今回も。我が軍の最強の大将軍。敵軍の侮れない知将。
戦局を見渡し、兵を動かし、策を巡らし、如何にこの戦の手中握るか。
王騎役の大沢たかおは勿論、新参戦の趙荘=山本耕史、馮忌=片岡愛之助、万極=山田裕貴ら実力派を揃えているのもそれ故。
さてさて今回、回想や背景に当てられた為前半ほとんど出番の無かった信だが、活躍するのはここから。
前述の通り、百人小隊の隊長に任命された信。
だがその隊も荒くれ者や寄せ集め。ガキが隊長で不満を抱いている者も。
が、そんな中でも、前作で共に闘った仲間たちや王騎の修行に同行した副長の頼もしさ。
副長がもう一人。待ってたぜ、羌かい! これで百人力!
清野菜名を始め前作からの続投の顔触れが嬉しい。
とは言え、たった百人程度の小隊。こんな俺たちに何が出来る…?
王騎から特別任務を課せられる。両軍争う中、一本の矢となって飛び、敵の知将・馮忌の首を捕れ。
この時代に“ミッション:インポッシブル”!? あまりにも大胆にして無理難題な任務。
こんな俺たちにそんな大任が出来るか…?
が、これは、この戦の命運を決する。この戦に勝つも負けるも、この小隊の奇策奇襲に懸かっている。
思えば前作も、信らの僅かな集団が火種となり、やがては戦局の行方を変えたほどに。
命運懸けた大決戦を、真っ正直から堂々と闘う事こそ戦士の誇りだが、それで絶対勝てるという保証はない。切り札を持っているか、否か。それもまた戦略。
実際の戦術は彼ら次第。これは試練でもある。
それが俺たちにしか出来ない特務というのなら、やってやるぜ!
勿論容易くはない。
敵軍の目を盗み、岩山から忍び寄り、敵襲にも応戦。
押される事幾度も。その度に諦め挫けそうになる。主戦場でも秦軍が劣勢に…。
ここで負けてなるものか。二手に分かれ、敵襲を食い止め留まる班と進む班。
行け、信!
隊の中にあった不和もいつしか強固な信頼に。兵たちはこの若き隊長を、若き隊長は仲間たちを。
馮忌のいる本陣に辿り着いた。敵襲はますます激しい。
馮忌の姿は捉えている。その首まで、後もう少し、後もう少し…。
体力にも援護にも仲間たちにも秦軍にも限界近付く。ここまでか…?
自らの知略による主戦場の闘いを重視していた馮忌。
自身にじわじわ迫る“一本の矢”を気にも留めていなかった。
それに気付いた時、今更ながら知った。この戦要はその“一本の矢”だったと。自分はまんまと王騎の手中の内だったと。
撤退を命じる。
遂にその時、信の剣が馮忌を…!
天下の大将軍になる。
亡き親友と交わした約束。それの為にここまで闘ってきた。
国の命運を懸けた戦に於いて、その勝敗を決した信たちの活躍。
王騎から与えられた隊の名は、“飛信隊”。
まさにその名の如く、一本の矢となり飛んでいく。
まだまだその存在は知られていない。すぐ忘れ去られる。が、じわじわその名は広がっていく。
飛信隊の名も。信の名も。天下の大将軍へ!
信の隊長ぶりと山﨑賢人の熱演は頼もしい。
戦が終わって宴。
このまま勝利の酔いに浸っていたかった。
彼らに忍び寄る謎の人影…。
羌かいが言っていた。“武神”と呼ばれる恐ろしい存在がいると…。
奇しくもそれは、王騎の過去の因縁と深く関係し…。
王騎が戦線復帰した理由はこの男。
吉川晃司演じるこの男と戦を高台から傍観していた小栗旬演じる謎の男。
今回の敵将たちは戦の駒にしか過ぎなかった。
彼らは一体何者…?
今回ここでまさかの終幕。長澤楊端和の再活躍を期待してたけど、ラストシーンにちょこっと登場するだけ。
1作目から3年置いて2作目が作られ、去年今年と続けて公開されたが、次作こそ早く公開して欲しい。来年と言わず、今年中にでも。
でも次作の予告映像無かったし、数年待ちか…。そんなご無体な!
『ミッション:インポッシブル』や『ワイルド・スピード』より続きが見たい。
にしても、後何作続くのだろう…?
何作だっていい。とにかく早く見せてくれぇぇぇ!
各々の運命が交錯する炎は今、燃え始めたばかり!
近大さんの語りレビューでもう一度映画を見た、以上の臨場感に背筋がゾクゾクしました!琵琶法師の語る平家物語をワクワクして聞いた昔の人になったような気持ちです!ありがとうございます