「ハヤオは止まらない」君たちはどう生きるか 野犬さんの映画レビュー(感想・評価)
ハヤオは止まらない
NHKのドキュメンタリーを観て何となく分かった気にはなりました。気になったというのは、そもそも宮﨑駿自身もこの映画についてよくわかってないらしい。
よくこの映画を宮﨑駿の自慰映画と揶揄する人がいますが、それは間違っていないと思った。
でも不思議と「これが俺の人生だ!どうだ!」みたいな感じではなく、先に旅立ったジブリの戦友たちにただ会いたいという純粋な感情や、寂しさ、この世とあの世の境目が分からなくなる狂気で、観終わったあとしばらく頭から離れなかった。
怖いし不気味なのに、切ない。
内容自体は大変つまらなかったです。唐突に終わります。
しかし、つまらないのに頭から離れないのです。
それぞれのシーンも脳裏に焼き付いてくっきり思い出せる。
結局、宮﨑駿はいくら歳をとろうが天才なのでした。
とはいえ「ジブリに興味のない人間からしたら、そんなの知らんわ!自慰映画を観客に金払って見せるな!」と怒りの感情も湧いてきました。
でも、よくよく考えてみれば宮﨑駿はそんなの承知の上でこの映画を作ったのではないかと。
夢と狂気の王国というドキュメンタリーで、昔の宮﨑駿が「自分が幸せになるために生きてる?どうも違うと思うんだよな」
的なことを言っていたのを思い出しました。
人を楽しませるために名作を作り続けた大監督が、この作品が商業映画という観点からみればダメであるということは重々承知なはず。
少なくも子どもに見せるものではない。
それでも作ったんだなと‥‥
かつて息子の吾郎が作った伝説の映画「ゲド戦記」を観たとき、途中で席を立ちタバコに火をつけながら「気持ちで映画を作っちゃいけない」と呟いた宮﨑駿。
だけど、時を超えてこの「君たちはどう生きるか」で気持ちで映画を作ってしまうのだからなんとも似た者親子。
さて、最後に。
映画館でこの映画を観てる途中「こんな三途の川を渡るような狂った映画を作って、監督は大丈夫か?もう本当にこれが最後なのか?」と不覚にも心配の感情が湧いてきました。
しかし、そんな心配なんのその。
映画ラストで眞人(駿)は大叔父(高畑勲)の頼みを拒否し、鳥のフンまみれになりながら見事この世に帰って来ました。
宮﨑駿監督の次回作を楽しみにしています。