劇場公開日 2023年7月14日

「宮さんのキャリア集大成」君たちはどう生きるか nomさんの映画レビュー(感想・評価)

宮さんのキャリア集大成

2023年11月1日
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興奮

知的

難しい

宮崎駿という作家を語るうえで、言葉や概念ではなく映像そのものに注目しないと本質には迫れない、と私は思う。「もののけ姫」のようなテーマ先行の作品もある。しかしそれは例外であり、例えば「ナウシカ」なら暴走する大群の王蟲や、「トトロ」なら野山を飛び越えるネコバスなど、ワンカットごとの強烈なインパクトのある画ありきで、その集合体がそれぞれの作品として形を成していると捉えるべきだろう。というのも、脚本監督なんでもやる宮崎駿を一言で表すならば「超一流のアニメーター」であるからだ。よってプロットやテーマについて分析するのは博学な諸氏に任せるとして、私は画そのものの切り口から少しだけ語ってみたい。

印象に残ったカットを思い出すままに列挙する。じめっとした空気の中に香る西洋建築の木の匂い。若干デフォルメされた女中たち各々の歩き方。肉を切るときの弾力感。波のように群れをなす生き物たち。固体が液化する質感。朽ちて崩れ落ちる木と金属。などなど。

それらは私が今までに繰り返し見た宮崎映画の記憶として刷り込まれ、もはや血肉になっている。宮崎駿が命を削って半世紀に渡り生み出してきたあの画この画を惜しげもなく全て注ぎ込んだのが「君たちはどう生きるか」という作品である。

御歳80を過ぎてこの圧倒的な画を生み出す宮崎駿は鉄人である。本作品はそのキャリアの集大成と呼ぶに相応しい。私は2023年にこの新作が観られることに感謝したい。

nom