劇場公開日 2023年7月14日

「一度、宮崎駿について書いておこう」君たちはどう生きるか シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5一度、宮崎駿について書いておこう

2023年7月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

見終わって感想を書こうとか思ったのだけど、よく考えると私は宮崎駿作品って見てはいるしそれなりに好きなんですが、ちゃんと感想を書いた覚えがないのです。
恐らく、私にとって感想を書けない種類の作家に属する人なんでしょうね。
なので他者の感想を読んでもいつもあまりピンとこないし「あぁ、なるほどね」程度の感情しか湧きません。
今回はその辺りを検証しながら宮崎駿という作家について、一度書いておこうと思います。

私の場合大まかに、テーマ性より物語性の強い作品であったり、鑑賞後感が単純に「あぁ~面白かった」だとか、「スゲェー」「なに、コレ」だとかの圧倒させられたにも関わらずテーマ性を見つけられなかったり理解不能の場合は大体感想が書けません。
なので、メッセージ性の強い(例えば社会派映画の様な)作品の方が感想を書くのが楽なのです(苦笑)
例えば、具象絵画を見る感覚と、抽象絵画を見る感覚との違いに似ているのかも知れません。
基本的に宮崎駿ってファンタジー作家であり、そしてファンタジーというジャンルでの私の鑑賞スタイルはほぼ疑似体験であって、一作品として俯瞰した視点で捉えられないのかも知れません。
だからファンタジー作品を見ている時はいつも理解を超えて「わぁ~~」って感覚しか残らないのです。例えば『オズの魔法使い』『不思議の国のアリス』『クマのプーさん』などの映画を見た時の感覚と同様で、鑑賞(解釈・解析)よりも実体験をしている感覚に近いのです。

但し、本作は今まで(全盛期)の宮崎作品とは違い作家自身の私小説も混ざっているので、なので観客(マニア)はああでもない、こうでもないといった言葉遊びに耽るのでしょう。前作『風立ちぬ』ではファンタジーから離れあれだけ自分語りをしていましたから…
で、前作だけではまだ自分語りが足りなかったようで、本作は全盛期作品群の純ファンタジーと自分語りとの融合の様な作品で、まさに今流行りの宮崎駿流のマルチバースを上手くやっていました(笑)

“集大成”って言葉は便利で、本作で今までの作品の要素を敷き詰めて個人史をも語るという方法を見つけ出したように感じました。
よく黒澤明など巨匠作家の晩年期に至る作品の変容と比較されがちで、自分語りの増加という点では共通していますが、宮崎駿は全盛期の作品の特質もまだまだ残していたので、観客側の違和感はそれ程無かったと思います。
手塚治虫なども自分語りはありましたが作品としては独立させていて、宮崎駿の様な“作品と個人史の融合”といった形はほぼなかったので、やはり他の先輩作家たちへの無意識の中の意識があったのかも知れませんねぇ。

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シューテツ