劇場公開日 2023年7月14日

「子供たちは、トイレに立つことはあったが、席を後にすることはなかった。」君たちはどう生きるか 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0子供たちは、トイレに立つことはあったが、席を後にすることはなかった。

2023年7月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画館の私の周りには母親に連れられた子供たちが、たくさん座っていた。夏休みに入ったためだろうし、席が出口に近かったことも関係していたのだろう。
映画の内容は、導入部と展開部の二つに分かれていた。導入部は戦争中の現実の世界。展開部は、宮崎駿の空想の世界。導入部は、映画「風立ちぬ」の続編かと思わせた。風立ちぬの時は、半藤一利さんとの対談をまとめた「半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義」が出たことを思い出す。さぞかし、宮崎さんは半藤さんに、この映画を見せたかっただろう。少し間に合わなかった。宮崎さんが唯一、当時の戦闘機で描けると言っていた「風防」がたくさん出てくる。お父様の思い出。
後半の展開部は、宮崎さんの頭の中の世界。これまでのジブリにでてきた映像が連続する。前半と後半をつないでいるのが、疎開先の敷地のはずれの母方の大叔父が関連する塔。この塔は、外観も書籍に埋もれた内景も映画「薔薇の名前」に出てきた塔を思わせた。後半に入って行くときに、一本の真紅のバラが気になった。
後半は、確かに子供さんたちには、ついて行くのが難しかったかもしれない。でも、私たちの耳に馴染んでいる名優たちの声が聞こえてくる。私にとっては、何よりも、一枚の絵が出発になっているように見えた。宮崎さんが、まだお若い頃、私たちも大変尊敬している堀田善衛さんと司馬遼太郎さんのお二人から、書生として話を聞く形をとった「時代の風音」という本を残している。本当に、ヨーロッパのことを勉強されていたのだ。後半、出てきたドアは、パリ・シャンゼリゼ劇場のそれに似ていた。
空想の世界から戻ったあと、主人公は少年に成長する。私たちが中学に入学する頃に、岩波少年文庫で読んだ吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」のコペル君と同じように。
私の席の周りの子供たちは、確かにトイレに立つことはあったが、最後まで席を後にすることはなかった。きっと、この映画のことを大人になってから、思い出すに違いない。宮崎駿は、あの子供たちのためにこそ、この映画を作ったのだ。
傑作である。
--
書店に、長いこと見なかった「時代の風音」(朝日文庫)が並んでいた。増刷されたようで、大変うれしかった。(2023.10.01)
--
この映画が、オスカーの前哨戦の一つであるニューヨーク映画批評家協会賞のアニメ映画賞を受賞した。台湾や韓国での評判も聞こえてくるし、遠からず中国でも受け入れられるだろう。宮崎駿は、少なくとも半分は子供たちのために、この映画を作ったはずだ。私たちが、小学校の後半から中学校にかけて、吉野源三郎の書いた「君たちはどう生きるか」のコぺル君に親しんだように。(2023.12.02)
--
本作は、第81回ゴールデン・グローブ賞のアニメーション作品賞を受賞した。さあ、次は、いよいよアカデミー賞だ!(2024.01.08)
--
この映画が、第96回アカデミー賞の長編アニメーション映画賞にノミネートされたことが伝えられた。我が国でも、より多くの人たちにこの映画を観ていただきたいと思う。前宣伝が一切なかったとか、難しいとかの評判に惑わされることなく、この素晴らしい映画を楽しんでほしい。今からでも、遅くない!(2024.01.23)
--
アカデミー賞の受賞、おめでとうございます!
皆さん、今からでも決して遅くないので、劇場に足を運んで、この映画を見てください!
前評判とか、人が言ったことにとらわれることなく。
詳しい事情がわからない外国で、これだけ評価されたことが、何よりの証拠です。
素晴らしい映画ですから。
(2024.03.11)

詠み人知らず
詠み人知らずさんのコメント
2023年8月12日

In the second half of the film, "Imagination World," I noticed that a scene was based on a single painting. It was Swiss-born Arnold Böcklin who drew it, and the title is 'Island of the Dead' and 'Die Toteninsel'. Hayao Miyazaki gave us a very impressive drone's eye view of this island in his film.
He also showed us an unforgettable monument called "Stonehenge" in this film. This is in in southern Britain, and its meaning has not been determined yet, but I think that it is often talked about in relation to "ceremonial and funerary monuments".
I believe that these two landscapes are the key to understanding his story. Children watching the film may not know the exact meaning of these items, nor do they need to know, but they may have experienced a frightening and unusual sensation. I hope that children will remember his films through these scenes even when they grow up after their glorious adolescence.
It was a good movie and thanks to Hayao!

詠み人知らず