「「自分を写す鏡」であり「風の時代」を象徴する作品 ~じっくり考察あり~」君たちはどう生きるか kiddさんの映画レビュー(感想・評価)
「自分を写す鏡」であり「風の時代」を象徴する作品 ~じっくり考察あり~
2回見ました。
●●「本作は自分を写す鏡」
岡田斗司夫さん曰く
「本作品は自分を写す鏡」
であり、自分もしっくりくる作品評です。
「内容が難しい」と感じるとしたら、普段から物事を難しく考える癖が付いている。
「内容が分かった」と感じるとしたら、普段から物事をシンプルにとらえている。
「つまらない」と感じるとしたら、「こういう展開、物語だったら面白さを感じる」という枠組みを無意識のうちに、自分の中に設定しており、それに合致しなかったから。
「面白い」と感じるとしたら、様々な事柄に対して、自ら面白さを見出してしまうから。
また
「この作品はエンタメではなくアート」
とも述べておられました。
ですので、エンタメを求めて映画を見た人からすると、物足りなさを感じ「駄作」という評価になるのかもしれません。
一方、先入観なく映画をありのまま見て感じ取ろうとする人は、十人十色のものを感じたうえで「これはこれで面白い」という評価になるのかなと思います。
その意味で、万人受けする映画ではないという評価も妥当かもしれません。
●●作品から受け取ったメッセージ
・現実を受け入れる
・運命を受け入れる
・自分の意識をありのまま反映したものが世界の姿
・自分の意識・内面ときちんと向き合う
・誰もが自分の中に、悪意、闇を抱えており、それを認めて受け入れる
・世界を良いものにするか悪いものにするかは自分次第
・人間には自由意思があるので自由に決めていい
・さあ、君たちはどう生きる?
●●感想
面白かったですし、考察自体も楽しいです。
「風の時代」を象徴するスピリチュアルな作品だと感じました。
●●シーンごとの考察1
○火事で母が亡くなる夢から目が覚めて、ベッドで涙する眞人
○亡き母からの贈り物「君たちはどう生きるか」を読んで涙する眞人
→亡き母を忘れられず、継母・夏子を受け入れられなかったが、小説を読むことで、実母からのメッセージを受け取り、夏子を母として受け入れようと心境が変化。
→だからこそ、行方不明になった夏子を探しに行き、必死に連れ戻そうとした。
○人間を食べようとするペリカン
(眞人は青鷺の羽根を持っていたから無事だった)
○わらわらを食べるペリカン
○目の前で力尽きようとするペリカンが語る下の世界の状況
→下の世界は、食べ物を得るにも事欠くありさま
→どこまで飛んでも、同じ地点に戻ってしまう無限ループな世界
→ペリカンは飛行能力すら失われつつあり、種の衰退、忍び寄る滅びさえ予感させるような絶望的状況
○殺生を許されていないため、漁ができず、キリコが捕った巨大魚のおすそ分けを待つ半透明人間たち
○狭い石造りの巣に、押し込められるように暮らす多数のインコたち
○インコ大王のお付きインコ「(果物がなる木々を見て)ここは楽園か~?(涙)」
→支配する側の大叔父だけが、天国のような生活をしており、支配される?側の大多数の生き物は、いつも苦しい生活をしている。
○宇宙から飛来した隕石
→宇宙には高度に発達した文明、高次の存在(宇宙人)がいることのメタファー
○「石」との契約
→新たな世界を創造できるようになる。
○「石」
・宇宙からやって来た
・意識を持つ
・世界を新たに創造する力を持つ
・契約を交わした人間に対し「世界創造の石」を与え、その人間はこれを使うことで、新たな世界を創造できるようになる
・その石は、最初は、善悪、陰陽などの色に染まっていない(性質や属性が何もない)
・石には意思が宿る
・創造主の意識・意思が、そのまっさらな「世界創造の石」に、ありのままインプットされ、その石はそれをそのまま世界の姿としてアウトプット…世界を物理的に形作る
○大叔父
・「石」と契約を交わした下の世界の創造主
・争いも愚かさもない、みんな豊かで幸せに生きる世界を作りたかった
・ところが、大叔父が住む領域だけは楽園になったが、ペリカンやインコなど他の生き物が住む領域は、とても生きづらい地獄のような世界になってしまった
・というのも、創造主たる大叔父の意識の中に悪意が含まれており、それがそのまま下の世界にも反映されたから
・それが地獄と言われる下の世界の姿だった
→だから、どれだけ楽園を作りたいと願い苦心しても、それが叶うことはなかった。自分の悪意も一緒に世界の形になってしまうので。
→大叔父自身も、自分の内面にある何かしらの悪意が原因で、地獄のような世界になってしまっていることを自覚しながらも、その悪意がなんであるか掴みきれておらず、これ以上どうにも改善できないことに、もどかしさのようなものを感じている
→スピリチュアルで言えば、「『統合』の必要性は理解しながらも、自分の中に潜んでいる統合すべきネガティブな感情・波動をとらえることができていない」状態
(※悪や闇は排除すべきものではなく、誰しも自分の内にそれがあり、自分の中の闇と光を「統合」することで、抑圧的で不安や苦しみに満ちた現実から、自由で喜びや豊かさに満ちた現実になっていく)
○眞人「この積み木は、悪意に満ちた「石」でできている。木じゃない。」
大叔父「その通り。それを分かる君にこそ、後を継いでもらいたい。」
○生き物(人間)を殺すための刃物を研磨機(石)で研ぐインコ
○研磨機の土台は木製
→石にはそれを利用する者の意思が宿る。つまり、石を使う者に悪意があれば、そこに悪意が宿るということのメタファー
→木は植物であり精霊が宿るので、利用する者の意思が宿ることはない、ということのメタファー(木の精霊は描かれていない)
→大叔父は、自分の血を引き、かつ、若いのでまだ悪意を抱いていないであろう眞人に、創造主の地位を継いでもらい、地獄のようなこの世界を楽園のような世界にして欲しかった。
→スピリチュアルで言えば、大叔父は、自分自身の「統合」をあきらめて、まだ意識が分離していない(=統合されている)であろう眞人に、下の世界を託そうとした
○大叔父が暮らす楽園ではばたく小さなインコを見て「ご先祖様~」とつぶやくお付きインコ
→大叔父が小さなインコをどこかの時代から連れてきて、喋るインコへと進化させた
→大叔父の人間不信ここに極まれり
○眞人「この傷は自分の悪意のしるしです。」
と自身で付けた頭の傷を大叔父に示し、やんわりと後継ぎをお断り。
→眞人は、自分にも悪意があることを公言できるくらいに、自分自身でそれを認め受け入れることができた
→スピリチュアルでいうネガティブ、闇を「統合」した瞬間
→また、血縁、家柄などに束縛されない自由意思の発露
■■大叔父の悪意とは?
○「愚かな鳥よ」と青鷺に言い放った心
→他の存在を蔑み、差別し、自分のほうが優位な存在であるとみなすその心
→軽蔑や優越感は、「相手は間違っていて劣った存在だが、それと比べて、自分は正しく優れている」という自己肯定感を歪んだ形で感じたいという心理の表れ
→「どうせ自分なんて…」という劣等感や無価値観、自己否定や自分を卑下する心理の裏返しでもある
→差別は、「自分は清いが、相手は汚れている」という一方的な決め付けであり、嫌なもの不快なものは排除したいという穢れ意識の表れ
→親族以外の人間を招き入れないのも穢れ意識の表れ
→「鳥は下等」とみなすその意識が、「世界創造の石」に宿り、鳥たち他の生き物が生活していくには大変な環境、地獄のような世界として姿を現すことになった。
→創造主たる大叔父は、地獄になっている原因がそこにあることに気付いていない。自分の内にある何らかの悪意に原因があるということまでは認識しているのだが…。
○元の世界から突然行方不明になった心の内
→人間同士の争い、愚かさ、醜さを目にした際に自分が感じる苦しみから逃れたいがために、現実から目を背け、他人を寄せ付けず、自分だけの世界に閉じこもった
→大叔父が感じていた苦しみとは、ケガや飢えや病気などの身体的なものではなく、自分の心の中の動きであり、そこから目を背けるということは、自分自身と向き合っていないということ
→すなわち、自分の中の悪意と向き合えていないということ
●●青鷺(あおさぎ)
眞人のもう一人の自分、または
眞人の意識・魂の一部
→多分見る人によって、どうにでも解釈できる存在です。
→終盤、インコもペリカンもインコ大王も、鳥たちはみな眞人が元々いた世界に来て、鳥の姿になった(戻った?)のに、ふと気づくと、青鷺の姿だけ消えていた。
①ジブリ関係者の擬鳥人化
②別の時代から来た青い鷺
③眞人のご先祖様
④眞人の守護霊
⑤眞人のそのときどきの意識・心を投影した存在
⑥眞人の分身・魂の一部
⑦大叔父の分身
⑧ヒミの分身
⑨天使、天狗のような高次元の存在
⑩宇宙人
⑪宇宙から飛来した隕石の意識のかけら
⑫「世界創造の石」そのもの
⑬集合的無意識・超意識・宇宙意識
⑭その他
どれが近いと思いますか?
自分は⑤⑥がしっくりくる感じですかねー。
そのときそのときの眞人の意識を投影して振る舞う存在かなと。
お話が進んでくると、的確なアドバイスをするなど、スピリチュアルで言う守護霊やハイヤーセルフのような振る舞いもするようになります。
○青鷺「助けて眞人。お母さんが助けを求めてる。」
→眞人が無意識のうちに「お母さんに会いたい」という実母に抱いていた未練・願望が、青鷺を介して、そういうセリフとなって現れた。
○「本当は、夏子なんていなくなればいいと思ってるだろ?」
→「君たちはどう生きるか」を読んで涙し、夏子を母として受け入れると決めた眞人に、その覚悟を問うてきた
○「お前の心臓を食らってやる」
→眞人が青鷺に敵対意識を、なんならコロしてやろうという意思を持っていたので、その意識をそのまま鏡のように、青鷺が示す敵対姿勢として写し出した
○「隠れろ」
→だんだんと青鷺を信頼するようになっていったので、彼もそれに呼応して、的確な助言をするように
○「じゃあな友達」
→「青鷺も友達だ」と偽りのない心を叫んだので、その友好意識がそのまま投影され、爽やかグッバイに
●●シーンごとの考察2
○悪意が反映された下の世界の崩壊
→現実世界においても、闇側が作った様々な支配体制・ピラミッド構造がこれから崩壊していくことのメタファー
○下の世界にいた人間は、みな元の時代に戻る
→それぞれの自由意思で、それぞれ歩む道を決める。
○ヒミ「あたし、火、平気だよ。それに、あなたを生むなんて素敵じゃない。」と元の時代に戻ることを決め、眞人もそれを尊重する。
→自由意思の尊重
→火事で亡くなる世界線のまま?
→それとも、火耐性がついたから大丈夫?
→あるいは、火を自由に扱えたのは、下の世界のときだけで、元の時代に戻って火に触れたら、普通にやけどする?
○下の世界で生きること自体に苦労していたインコとペリカンも、眞人と同じ世界に来る(戻る?)ことで、みな自由に伸び伸びと羽ばたいていった。インコ大王も来た。
→これから眞人も自由に生きていく明るい未来を暗示
○「みんな友達だ!!!」
→人間とも、鳥とも、青鷺とも、みんなと仲良く生きていくという決意表明
→「愚かな鳥よ」と他の存在を蔑み、その意識が原因で、地獄のような世界を創造してしまった大叔父との対比
→でも、大叔父も最後の最後で「眞人、行け。元の世界へ戻れー」と眞人の意思を尊重して、その背中を押してくれたんですよね。
→自分が作った世界が崩壊を迎え、命も尽きてしまうかもしれない瞬間だったのに、子孫の幸せを心の底から願ってくれた。
そんな大叔父も含め
「きっと、この眞人なら、みんなと協力して、みんな豊かで幸せに暮らせる世界を作る…!」
そんな期待を胸に抱かずにはいられない。
そして、物語はエンディングを迎える…
…君たちは、君たち自身の世界に戻って来たよ・・
さあ、君たちはどう生きる?