「宮崎駿のイマジネーションが炸裂」君たちはどう生きるか ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
宮崎駿のイマジネーションが炸裂
本作は元々は同名の小説からインスパイアされたということだが、基本的には宮崎駿の完全オリジナル作品となっている。
ただ、後で調べて分かったが、元となった小説(未読)は主人公の少年と叔父さんのやり取りを中心とした青春ドラマということである。本作にも主人公・眞人の大叔父がキーマンとして登場してくるが、おそらくこのあたりは小説からの引用なのだろう。眞人は大叔父から”ある選択”を迫られるが、これなどは非常に重要なシーンで、正に本作のテーマを表しているように思った。穿って見れば、それは宮崎監督自身から観客に向けられたメッセージのようにも受け止められる。「君たちはどう生きるか?」と問いかけられているような気がした。
映画は東京大空襲のシーンから始まり、眞人の疎開先での暮らし、家庭や学校の日々がスケッチ風に綴られていく。不思議なアオサギが度々登場して眞人をからかったりするのだが、それ以外は極めて現実的なシーンが続く。
映画は中盤からいよいよファンタジックな世界に入り込んでいく。眞人の不思議な冒険の旅は先の読めない展開の連続でグイグイと惹きつけられた。
ただ、ここ最近の宮崎作品は、前作「風立ちぬ」は例外として、理屈では説明のつかないエクストリームな世界観が突き詰められており、本作も例にもれず。宮崎駿の脳内が生み出した摩訶不思議なテイストが前面に出た作品となっている。そこが人によっては難解で取っ付きにくいと思われるかもしれない。
そんな中、個人的に印象に残ったのは、ポスターにもなっているアオサギのユーモラスな造形だった。鳥のようでもあり人のようでもあり、得体のしれない不気味さも相まって強烈な存在感を放っている。最初は眞人と対立しているのだが、一緒に冒険をするうちに徐々に相棒のようになっていく所が面白い。
また、終盤の大叔父との邂逅シーンには、「2001年宇宙の旅」のような超然とした魅力を感じた。宇宙の誕生と終焉を思わせるビジュアルも凄まじいが、何より”あの石”に”モノリス”的な何かが想起されてしまい圧倒された。
他に、魂と思しき不思議な形をしたクリーチャーが天に向かって飛んでいくシーンの美しさも印象に残った。しかも、ただ美しいだけでなく、魂たちの向かう先には過酷なサバイバルが待ち受けている。これを輪廻転生のメタファーと捉えれば、生まれ変われぬまま朽ち果てていく魂もいるというわけで、その哀れさには切なさを禁じ得ない。
このように本作はファンタジックな世界に入る中盤あたりから、常識の範疇では理解できないような現象やビジュアルが頻出するので、ついていけない人にはまったくついていけないだろう。
なぜトリなのか?なぜ女中と亡き母親の容姿が変わったのか?なぜ積木なのか?等々。挙げたらきりがないくらい多くの謎が残る。
しかし、だからと言って本作がつまらないとは言いたくない。個人的には、その謎めいた所も含めて大変刺激的な2時間を過ごすことができた。
ちなみに、もう一つ本作を観て連想したものがある、それはバーネットの児童小説「秘密の花園」である。これも何度か映画化されており、自分は1993年に製作された作品を観たことがあるが、本作との共通点が幾つか見られて興味深かった。例えば、主人公が親を災害で亡くしたこと。トリに導かれて秘密の場所へ引き寄せられる展開。大叔父もとい叔父がキーマンになっていること等、共通する点が幾つか見つかった。
キャストについては概ね好演していたように思った。ただ、一部で違和感を持った人がいたのは残念である。ジブリはこれまでも俳優や歌手、タレントを積極的に起用し上手くハマるパターンもあったが、今回はそうとも言い切れない。
尚、本作は公開前に宣伝をまったくしなかったことでも話題になった。ジブリともなればタイアップやCMは引く手数多だろうが、敢えてそれをしなかった鈴木敏夫プロデューサーの手腕は大胆にもほどがある。もちろん宮崎駿のネームバリューのなせる業なのだが、この逆転の発想は革新的と言えるのではないだろうか。今の時代、全く情報なしで映画を観る機会はそうそう無いわけで、貴重な映画体験をさせてもらった。