「熱中して見ていました」君たちはどう生きるか 日常さんの映画レビュー(感想・評価)
熱中して見ていました
妄想かもしれないし、解釈というところまで昇華できたものではないかもしれませんが。
私はこの話を、眞人、なつこ、眞人の母の3人が
大叔父や眞人の父が作って来た世界に墓石のような積み木を足して生きていくか、それとも古い時代に捕らわれずに1から積み木を積み上げるかを選択していく物語だと捉えました。
だから、全編を通じて、大叔父からのメッセージとして「君たちはどう生きるか」が問われていたと思います。
時代背景も無意味なものではなく、家父長制のもとに言いなりになるしか無かった女性や長男が、戦争の前後という過渡期に、その自由を選びとるという選択肢を示されていたのだと思いました。
ファンタジックな描写が多かったですが
青鷺が眞人を連れて偽の母親に会わせる場面は、父親が眞人を連れてなつこさんに会わせる様子によく似ています
外面ばかりしっかりしている、エゴっぽくて内心は醜さのある父親って、青鷺そっくりではないでしょうか。
私はずっと出てこない父親の代わりを、青鷺の姿に投影して見ていました。
また、「下」の世界を地獄と呼び、生まれゆく命を喰らって生き延びるペリカンは、私には軍人達のように見えました。
ペリカン達に押しのけられ死の扉を開けてしまう眞人くん、ボロボロのペリカンに敬意を払う青鷺。
この辺りは眞人君の将来に「人を殺し殺される人生」の選択肢を仄めかしていたように思います。
また、多くのインコ達は時にヒミや眞人を喰おうとしたり、一方で妊婦のなつこに不可侵だったり、賑やかしてフンを落としたり…
このインコたちは、おばあちゃん達や、クラスメイトを彷彿とさせました。
私はインコたちを「世の中の人々」なのではないかと思ったのです。
世の中の人々は、最終的には眞人の積み木を無理やりに組みあげようとするが上手くいかない。
自由な生き方に対する、世の中の固定概念の敗北だと捉えました。こうしなければならない、という時代が終わったと。
ファンタジー世界の中で、眞人もなつこも、現実ではぶつけられなかった本音を語り合い、互いに互いの事情を知り、前に進むことが出来ました。
「眞人?どおりで死の匂いがプンプンすると思った」なんてフレーズもありましたが、どこまでも本音を隠す子供の名前が真実の人だという皮肉に対するものだったかもしれないですね。
教訓めいたものを見出すのは好きではないですが、敢えて意味深いものがあるとしたら
自由になりすぎた今の時代に、「初心に帰って」、自由の芽生え始めた時代を生きた人々を見てほしかったんじゃないかと私は思います。
父親のような青鷺に翻弄され、軍人のようなペリカンに翻弄され、大衆のようなインコに翻弄され、それでも自分の生き方を見出した眞人に、すごく感動しました。
他の作品ほど分かりやすくはないし、ポップな明るさ可愛さもほとんどないけれど、一場面一場面自分の感覚で落とし込んで見たこの作品はとても意味深いもので
正解、不正解は分からないけれども、私は戦い続ける眞人くん、なつこさん、お母さんにとても胸を打たれました。
手放しには人にオススメできないけれど、私はこの作品が好きです。