「ありがとう。」君たちはどう生きるか まゆうさんの映画レビュー(感想・評価)
ありがとう。
観終わった直後は、既視感が凄かったです。隣の観客はイビキかいて寝落ち。娯楽作品としてはイマイチな部類と思う。
ただ、個人的には好きです。
表のストーリーについては、何となく分かります。マヒトはお母さんが死んだ後、非常に危うい状態だった。絶望に飲み込まれかけていた。更にマヒトの生きた時代は戦争があり困難多く、そういう岐路に立たされた時、それを自覚して、精神世界にこもるんじゃなくて、人とつながり、人の思いを感じ、役割を果たすためにどう生きるかがとても大切なんだよというメッセージ。
もう一つは、若いアニメーターへ向けたメッセージのようにも思いました。
以前、Cutか何かで宮崎さんのインタビュー記事を読んだのですが。若いアニメーターに炎を描く仕事を任せたんだけど、どうしても炎が描けない。画力は素晴らしく、絵は僕よりずっと上手なんですけど、と。よくよく話を聞いたら、焚き火をしたことも無いし、キャンプの経験もほとんど無いと言う。で、焚き火をして燃える様子を体感させましたと。体が経験してないと、絵が上手いだけじゃ表現できないんです、物語のどういうシーンの炎なのか?キャラクターがどんな心情でいるのか?それによっても描き方が変わるので、と。
それって、表現する仕事に携わる人間は、妄想とか想像だけじゃなくて、現実世界で五感を通じて体験したり、人の心をちゃんと感じ取れる感性や、見極められる曇りなき眼が必要ということ。産屋で苦しみながら、丸裸の正直な自分と向き合って、悪意や負の感情で揉みくちゃになって作品を生み出す、大変な仕事。それを志す若者たちに、自分はこうやって、こんな作品を作ってきたけど、君たちは?この困難の世界で君たちは何を作る?と。
火といえば、作品序盤の、火事に飛び起きてお母さんを助けに行くシーンが素晴らしかったです。凄かったなぁ…。あれくらい強烈に描かないと後々の「どう生きるか?」というのが説得力無いですもんね。
あと、音や質感の表現が今までの作品より強調されていると感じました。音をずいぶん丁寧につけてるな、という印象で、ちょっとうるさく感じるくらい。生きてる実感、みたいなことか。気のせいだろうか。久々に映画館だったから、音響が良くてそんな風に感じただけ??
あと、私はアラフィフなのですが、若い頃のキリコさんの姿を見て、若さというか、たくましさ、エネルギーに溢れている時代というのは、本当にあっという間に過ぎ去るのだ…と強く思いました。人生は短い。老いた婆々たちの姿が自分と重なりました。
若いキリコさん、抜群にカッコよかったです。海で、風や波をつかまえて、力強く船を操る彼女の描写は素晴らしい。惚れ惚れしました。漁師とか、海の民を渋くじっくり描いた作品を見てみたかったです。
未来少年コナンを幼少期からテレビで見て育ち、ナウシカを映画館で見て、それからずっと宮崎駿作品とともに(というのはおこがましいが)生きてきました。私もすっかりおばさんになりました。宮崎駿さんが本当に引退される時が近づいていると感じました。いつも夏休みが待ち遠しかった。夏にジブリの新作を毎年見るのが、もはや当たり前という子ども時代だった。本当にジブリが大好きでした。面白い漫画やアニメはたくさんありますが、宮崎駿さんは私にとって特別です。ありがとう、ジブリ。ありがとう宮崎駿。
パンフレットが出たらぜひ購入したいと思います。
追記:もう何回見たか分からない全盛期の名作を見たくなってしまい、ナウシカ、ラピュタ…と一つずつ噛み締めながら鑑賞中。涙が止まりません。どうしよう。13作品コンプリートしちゃうかも。仕事あるのに…