「宮崎作品のごった煮(オタク向け)」君たちはどう生きるか のむたさんの映画レビュー(感想・評価)
宮崎作品のごった煮(オタク向け)
ファンサービスが多く、豪華声優陣、大人気歌手による主題歌とてんこ盛りな一品。
漫画版ナウシカとシュナの旅好きなオタクにはたまらないオタク向きな作品。
コンプレックスをようやく克服し、楽しく充実した老後を過ごすお爺ちゃんが、人生の総決算を映画を通して行っているため大変ごった煮である。
子供には少々長すぎる。
人は老年期になると、人生の総決算をする。宮崎監督は、映画を創作することで人生の総決算をしているようだった。
宮崎監督の作品は、監督のその時の状態がよくわかる。
正直、ポニョと風立ちぬは、監督の過去や母親へのコンプレックスを癒やすための作品としか思えず、あまり好きではなかったが、今作では、久しぶりにコンプレックスを作品として昇華してきた。
監督の中で、過去や母との関係に区切りがついたのだろう。
それでもきっと、未だに母親の夢を見るのだろうな。
珍しく、他の作品を連想させるシーンがとても多い。しかも、明らかに見る人が分かるようにやっている。ファンサービスだ。
そこに、変な説教臭さや、顕示欲は感じなかった。監督自身も楽しんでいることが伝わってきた。
監督が、前向きに、楽しく、息をするように、昔に思いを馳せながら、のびのびと創作しているなと感じられた作品だった。
あれが、自分の偉業を見せつけるためのものだとしたら、逆によくあそこまでささやかにやるなあ。
そして今作は、声優に人気俳優、主題歌も人気歌手と、宮崎監督がまるで普通の監督みたいなことができるようになっていることに驚いた。
この歳で、こんな方向転換ができるなんて、やっぱりとんでもない人だ。
内容に関しては、特に難解とは思わなかった。
今、漫画ナウシカと、シュナの旅を子供にも見せられるようにするならこう表現するんだなと分かる。
手を切り落とされてすすり泣いていた人食いや、蟲使いは、インコになった。
墓所は血を吹き出さなかった。
でも、やっぱりベースはここなんだな。
わかりやすい冒険活劇だけを創る人ではない。破壊と慈悲の混沌の人だ。
監督は、変わっていないなと、嬉しくなった。
しかし、他の作品ではカットしただろうシーンがいくつもあった。風立ちぬのような感じだ。今の宮崎監督はここを描くことに価値を感じるのだと興味深かった。まだ解明されていない老年期の特徴の1つなのかもしれない。
そんなわけで、お子様には少し長すぎるので、一緒に見た小学2年生は残り30分で飽きていた。
お子様には長すぎて、かと言って大人が求めるジブリとも違う。
オタク向けの宮崎映画だった。監督が戻ってきて、オタク向けの映画を作ってくれたのは素直に嬉しい。
個人的には、もののけ姫や千と千尋ほどの胸のヒリヒリや、ハウルほどのときめきも感じない。もう1度見れば、見えなかった細部は見えるかもしれないが、2度目の映画館には行かなくてもいいなと思う。
映画館に行くより、ナウシカを読んだほうが早そうだ。
気に入ったポイントは、インコの鼻息と、包丁を研ぐインコ。
駄目お父さんキムタク、素晴らしい説得力の火野正平。
意外と菅田将暉は滑舌が良くはないとわかったところだ。
いいごった煮だった。