「悪夢のようであり、走馬灯のようでもある」君たちはどう生きるか hさんの映画レビュー(感想・評価)
悪夢のようであり、走馬灯のようでもある
苦悩と向き合うことについて描かれた作品だった。
サラリーマンとして意にそぐわない仕事をやったことあって、自分死ぬんじゃないかっていう不安と孤独の中で子供を産んだことがあって、悩みもがきながら物作りしてる人で、抽象的な思考の世界に生きたくて死にたいほど悩んだことある人なら、一言一句何の話かありありと分かる。
あるあるを集めたコントかな?ってくらいあるあるなことばかり。
崇高な理想を求めて他を拒絶する人。あるいはモラルに反してでも生きるために這いずり回る人。生きる力を失い、求めてくれる人に暴言を吐いてしまう人。そしてそのまま精神世界でのみ生きることを選択し、帰ってこない人。無事生還する人。醜く這いずり回るのもまた、良くも悪くも、あるがままの頑張って生きている証。
大の大人が七転八倒醜く悩んでるのをただただ眺める主人公。
じきに世界の広さや深さを見て自分の小ささを知り、自分のやったことの小ささを認め、世界で自分はどう生きたいか考える勇気が湧いてくる。
風立ちぬ他全ての宮崎駿監督のアニメが、一つの美しい世界を矛盾なく写し取った写真なら、君たちはどう生きるか、は箱庭を用いたフィールドワーク。いくつもの世界を渡り歩きながら登場人物の置かれた苦境を、擬似的に体験していく。宮崎駿監督が付き添ってくれるから形としては優しい。
ただし青鷺の登場が悪夢的で怖すぎだし、しかも長い…罪悪感とトラウマがそうさせてる、という演出か?世界の境界の混濁具合はいつものジブリよりちょっと強めかもしれない。だから悪夢じみているように感じるのかも。
抽象的で綺麗な理想の世界を目指そうっていう時代も崩れ去り混沌に呑まれるのは、なんだかコンテンツが溢れた今日のことのようでもある。ところで、宮崎駿監督は本当に最後のつもりで書いたんだ、と見てて強烈に思った。ジブリといういろんな世界に繋がる館から、これまでにいろんな世界を見せてきた。千と千尋、風立ちぬ、紅の豚、もののけ姫、トトロ、ハウル、ポニョ。みんな見せてきた。世界のあちこちに走馬灯のように散りばめられた情景たち。でも館はもう崩れ去る。これまでジブリ作品といういくつもの世界を見てきた君たちは、それを踏まえてどう生きる?そう問われている。
なんか、役割を終えたこれまでのアニメたちを成仏させるために走る銀河鉄道の夜みたいでもあった。アニメたちと駿監督は記憶・時代の彼方へ去って行き、主人公は現世へ帰る。
そして、人間の置かれている混沌とした世界を愛おしく思ってよい、と言われている気がした。
悪夢であり、走馬灯のようでもある。これまでのジブリの中でかなり好きかなぁ。
みんなの感想を見て……
たしかに出だしの演出はすごかった!トラウマ確定演出、アドレナリン補正がリアルすぎて感動。
あと、青鷺は駿監督だと思っていたけど、塔の老人だけが駿監督だとすれば必然的に青鷺は鈴木プロデューサーっていう意見もあって納得した。
積み木の数が駿監督の作品数と同じなので、主人公は血族だからと次ぐことを望まれていた吾朗監督っていう考察もあるらしい。なるほど!
インコやペリカンその他諸々が、アニメ制作を取り巻く状況や携わる人たちであると見ると、たしかにしっくり感はある。
そう考えたときの、隕石を館で覆う時に出た犠牲者って……あぁ、犠牲者もたくさん出してきたんですね…そうですか…
この映画のことを難しいと感じる人もいるらしい。考えすぎちゃう人はアルコールを取り入れてから見るくらいがちょうどいいのだろうか?
いろんな解釈ができるようなので、パンフレットが出た後などに何度も見たい。宮崎駿監督のエピローグ的な作品だった。