「抗鬱剤の効能を期待した」君たちはどう生きるか 東京解毒さんの映画レビュー(感想・評価)
抗鬱剤の効能を期待した
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梅雨の移ろいがちな天候の下、
有名タレントが自死を選んだ7月であった。
『君たちはどう生きるか』
このぶっきらぼうな命題が事前情報なしで幕をあげると云うのが、私たちにとっては劇薬であり秘薬であった。
宇多田ヒカル、庵野秀明、こと宮崎駿に於いてはある種覚者としての機能が求められ、世間は向こう10年生き長らえる閃きを渇望している。
本作は「戦時中に母を亡くした主人公眞人が、異世界に迷い込んだ義母を救出するロードムービー」なのだが、恐らく観劇後2時間でこのあらすじを紡げる者は皆無であろう。
5分に1度、地球上の誰も見たことのない映像美が目まぐるしく展開され、説教臭さのない道祖神的な宗教観が全神経を奪っていく。
これらは碇ゲンドウがテレポートした時の痛快さを孕み、時にすずめの戸締りであり、時にインセプションであった。
義母を母と認めるに至る神隠しの中で、千と千尋と違ったのは髪飾りの匂わせで閉幕しなかった点。
眞人は異世界の記憶を有しているとメタ表現を用いて迄説明がなされ、自己選択によって現世に帰還した事が強くアピールされた。
思えば劇中では死人も魚を欲しており、兎角生死を選びたがる私たちから死の退路/進路を無意識に消し去ってくれる様な効能を感じた。
『君たちはどう生きるか』
観劇後のタイトルは生命力に満ち溢れていた。
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