「平和主義者の選択」ウーマン・トーキング 私たちの選択 ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)
平和主義者の選択
映画自体に凄惨なシーンは描かれていないが、原作の実際に起こったというボリビアの事件はあまりにもショッキングで想像を絶する。複数の女性たちが男たちに牛用の麻酔スプレーによって意識を失わされて、昏睡状態の中で夜な夜なレイプされていた。これを男たちは「悪魔の仕業」「作り話」だと言い逃れ、レイプを否定してきたが、ある日犯行前に目を覚まし、抵抗し、犯人を目撃する女性がいたことから、犯行が判明する。被害女性は最低でも151人、最年少は3歳、最年長は65歳、成年男性や少年も被害にあったという痛ましい出来事だ。
こういう悲劇が起きた後でも冷静でいられるのは彼女たちに信仰心があるからであろうか? 彼女たちは、16世紀に誕生したキリスト教のプロテスタントからの分派である再洗礼派(アナバプティスト)の流れを汲んだメノナイトという教派に属している。この一派は、非暴力主義を貫いていて、暴力を使わない抵抗と融和および平和主義のために行動しているらしい。
赦すか、闘うか、去るか、議論が繰り広げられる。「男たちを赦すことができないと天国への門が閉ざされる」「今まで動物のように扱われてきたのだから、同じように男たちに反抗すべきだ」「自分たちだけでなく、子供たちの身の安全を守るために出ていく」
最後は平和主義に徹しているメノナイトらしい結論を導き出した。復讐に燃えるもの、子供たちの未来を見据えるものなど大半の女性たちは去り、信仰深きもの、知恵のあるものが残った。
どうするのが正解ということではなく、こうするしかないという苦渋の選択であった。
この事件が2010年の出来事であることを知らせる挿入歌『デイ・ドリーム・ビリーバー』は1967年にモンキーズは発売したシングルであるが、日本では、忌野清志郎らによるロックバンド「ザ・タイマーズ」の日本語カバーがあり、セブンイレブンのCM曲としても有名である。