「未来の選択」ウーマン・トーキング 私たちの選択 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
未来の選択
南米の宗教コミュニティーで実際に起きた事件をもとにした作品。これがつい最近の出来事と知って驚いたが、中東の国なんかでも女性は車の運転はおろか、自転車に乗ることも最近まで禁じられていた.。
それこそ先進国などでは女性への人権意識は向上したものの日本を含む途上国ではまだまだ後れている。
本作ではこの事件を受けて女性たちが今後の身の振り方を決めるため集まって投票をする。そしてこのまま村に残って男たちと戦うか、この地を去るかで意見が二分される。そこで女性たちの代表が集まりどちらを選ぶべきか討論する。
今まで虐げられてきた恨みから憎しみを爆発させる女性、かたや暴行で出来たお腹の子供を愛し、去ることを主張する女性。戦いを選ぶか平和を選ぶか。閉鎖的コミュニティーで行われる議論がまさに普遍的意味合いを持つようになってくる。
本作で最も興味深いのは散々議論を重ねた末に、女性たちがこの地を去ると決めたこと。これは無益な争いを避ける賢明な判断だったといえる。戦えば自分たちもただでは済まないし、相手だけではなく自分の子供たちにも被害が及ぶ。
去ることはけして逃げることではないし男たちへの「赦し」でもない。無言のまま立ち去ることで男たちへ罰を与えることになるだろう。
信仰による「赦し」というものに縛られて今までどんなに虐げられても無理矢理それを許容させられてきた女性たち。この地を去るということは自分たちを縛るそんな「赦し」というものから自分たちを開放することにもなる。
これが何よりの解決策。虐げられ、教育も受けさせてもらえなかった女性たちのなんという賢明さであろうか。
思えば、過去のあらゆる戦争は愚かな男たちが起こしてきたもの。男は命を奪う争いをずっと続けてきた。かたや女性は命を産むことからも未来を紡ぐ存在だと言える。平和を望み争いを避ける賢明な判断は女性特有のものといえるのかもしれない。
周辺危機をやたらと煽り立て軍事化を目指す為政者たちに彼女たちの判断を見習ってもらいたい。あるいは為政者がすべて女性であれば世界は平和になるのではないか。
本作では討論の中で男性たちも被害者だという言葉がある。古い慣習に縛り付けられ、女性を虐げてもいいように教育されてきたのがそもそもの元凶なのだと。
本作で唯一の男性理解者である教師のオーガストはまさに正しい教育によってもたらされた象徴的存在だ。
彼は学業を学んだだけでなく倫理道徳も身につけている。けして女性を虐げることはない。だからこそ彼は筆記係に選ばれた。
彼は言う。子供たちの競争心をあおるのではなく思いやりを持たせることが子供たちにとっては重要だと。女性を含む他者への思いやり、それは必ずしも自然に身につくことではない。それは大人たちが教えてあげなければならないのだと。
特に年頃の男子は血気盛んでともすれば道を踏み外すこともある。そんな子供たちに相手への思いやりを持つことを学ばせる。そうすれば将来DV男ではない思いやりのある大人になるのではないか。そしてそういった教育がしいては争いのない平和な世界につながる一歩となるのではないか。
今の世の中は新自由主義の下、激しい競争社会で他者を思いやる余裕が失われている。大人たちは政治家を筆頭に噓を平気でつく始末。そんな社会で思いやりを持った子供たちが育つわけがない。オーガストの言葉は暗に今の社会の問題点を指摘してるように思える。
争いをせず、未来を選択した女性たち。作品のラストで生まれた赤ん坊の世界は今までとは違うはずだとオーナは言う。
賢明な判断を下した女性たちが育てる子供たちが平和な世界へつながってゆくと信じたい。
レビューに心から共感しました。人間にとって教育は本当に大事です。それが学歴社会で点数をとるための「勉強」や、自分の意見を言わない、皆と同じ振る舞いをよしとする学校現場が「教育」とされているのが日本です。勉強は楽しい、自分の意見を言うことや異なる意見に耳を傾け寄り添う態度で一緒に考える、はトレーニングと教育で身につくものだと思います