「血を燃料に暴走する船」オオカミ狩り 平野レミゼラブルさんの映画レビュー(感想・評価)
血を燃料に暴走する船
凶悪犯を護送中の船で脱獄した囚人達が大暴れ!のあらすじからして韓国版『コン・エアー』を連想してたら『フロム・ダスク・ティル・ドーン』がお出しされた怪作
……いや、滅茶苦茶引っ掛かる部分は多かったんだよ。
海洋安全局を乗っ取る謎の機関とか、明らかに患者というにはフランケンシュタインの怪物じみてる存在とか……
何となく「あれ…?これもしやこっちが想定している映画と違うんじゃない……?」ってのは割と早い段階で察せられて、医者が地下に行ってから「ねえ…これもしかしてスッゲーうろんな映画でしょ……?」って確信に移りだしていた。
ただ、それをカモフラージュする前半の『コン・エアー』部分が滅茶苦茶面白くてうっかりその疑念忘れてたんだよ!!
一応キャスト欄見るに主演扱いのソ・イングク演じるジョンドゥがキレッキレの狂いっぷりでスッゲェー楽しかった!!
徹頭徹尾クズのサイコ野郎殺人鬼なんだけど、常に画面映えするようなサイコ笑顔を浮かべるもんだからキュンキュンしちゃってさあ!!マッパからヤクザスーツ羽織る場面とか「ビジュ爆発」してたよね〜!
あと、特筆すべきは刑事をナイフで嬲り殺した挙句、タバコ吸いながらおもむろにションベン引っ掛け「シビれるぜ…」って嘯く場面。観ているこっちの方がシビれてしまう格好良さだったぜ……
湯気立ってるのがタバコなのか、ションベンなのかもわからない汚らしさも最高……というか本作の美術は「綺麗は汚い、汚いは綺麗」を体現している感じで、常に血みどろだし汚らしいんだけど、それが常に画面映えしてキマっているのが真実(マジ)ビジュ爆発でしたね。全ての場面が芸術的に美しいゴア画像で、ビジュアル見ているだけで腹いっぱいでした。確かな満足……!
そんなワケで前半の殺人劇を引っ張っていったジョンドゥさんですが、アルファ覚醒後は用済みとばかりにかませ犬としておっ死ぬので「ぜ…贅沢……!!」となってしまった。
ソ・イングクのイケメンさとか、心技体伴ったキレ者っぷり、刑事との因縁、そして何より「身元不明の遺体(ジョン・ドゥ)」を表す名前から、アルファに敗北した後も蘇生して活躍とか色々な想像をしていましたがマジで死んだままだったの笑ってしまう。
『フロム・ダスク・ティル・ドーン』のジョージ・クルーニーは後半で転調した後も何やかんや主役として大活躍してたのに、こっちはマジで何事もなかったかのように「ハチャメチャ⭐︎モンスターパニック!」の中に埋没しちゃいましたからね。
ジョージ・クルーニーというより『黄龍の村』の水石亜飛夢のポジションです。いや、水石亜飛夢はマジで没個性的な陽キャでしかなかったですが、こっちはまともに映画撮ったらそのまま主演かラスボスポジ張れる存在やぞ!?
というか、ソ・イングク自体が超人気の韓流アイドルでパンフにも丸々6ページのグラビア載ってる辺り、彼目当てで来る観客も多いだろうにこの扱いでいいの!?そんなキャラクター(役者)をこんな簡単に捨てるの……正気か!?
というかジョンドゥに限らず、前半パートでキャラ立ってたほとんどの人物が捨て石的存在でしかないのもおかしいよ!!
ヤクザ夫婦は旦那が常に尻に敷かれてると思ったら、最後に男を見せて奥さん助けるし、奥さんもサーモグラフィを冷凍庫でやり過ごす神回避を見せたけどあっさり死んだし!!
警察班長は生き残った部下のためにアルファの片腕噛み千切る大戦果発揮しますが、結局生き残りそうだった部下の女刑事死ぬし、アルファもラスボスの前座に成り下がるし!!
コイツらが生き残り枠か〜と思ったお爺さんと医者もフツーに死ぬし!!
次々と魅力的な人物と設定を出すけど、全て物語を推進するための燃料として消費するのあまりに思い切りが良すぎるよ!!!!
本作は勢い重視の作品であり、少しでも止まったら死ぬというマグロのような生態をしています。
冒頭から終盤まで殺戮の嵐だった理由はまさにそれで、勢いが途切れてしまうと途端に陳腐でつまらない作品に成り果ててしまうんですよね……
今思い返してみると、マジで物語上必要のない殺人描写が多すぎましたもん。
まず冒頭の最初のフィリピンからの囚人輸送での爆破テロ。後々何か絡んでくるのかな〜って思ったら、マジで金騙し取られた一般通過自爆人間でしかなかったですからね。
一応囚人護送がアレだけ厳重な理由付けにはなってますが、別にそんな理由いらないですもん。始まりから馬鹿みたいな量の血糊を流して一発かましたったぜ!!以上の理由がない。馬鹿なのか???
あとアルファ誕生の経緯も映像化されたけど、医者がその前に解説してくれたし、大体想像つく範囲の話だったのであれも別に要らねー場面という。
韓国映画名物妙ちきりんな日本語に(「手術」を「しゅじゅちゅ」と宣う旧陸軍かわいい)、なんか妙に揃わない拍手、手術チームのリーダーをケンさん呼ばわりと色んな面でおかしさが詰まっている映像でしたからね……
とまあ、本来であればノイズとなる部分が異様に多い映画なんですが、本作においては全て物語推進力を増すための燃料にして起爆材となっているので無問題(モウマンタイ)。異常な血糊のほとんどをガソリンとして燃料タンクに給油し、後半はガソリンというより核燃料の類だろ!!ってモンまで混入させて速度を維持させて突っ走りましたからね!!
だからいくら「後半からアルファ投入させて映画のジャンル変わるヤツだな…」って予想自体は出来ていたとしても、その勢いに誤魔化されてテンションはうなぎ登りになってしまう。
アルファがアベンジャーズよろしく上からババァーン!!って落ちて登場してきた時の衝撃凄まじかったですもん!その後、漫画のような勢いでブッ飛ばされるヤクザで明らか映画内に漂ってた空気も変わっていた。移動の度にガチャンガチャン金属音響かせて異物感強いのも笑ってしまう。
「旧陸軍はこれどうやって保管してたんだ…」とか「犯罪者輸送するコンテナ船でわざわざ運ぶなよ…」とか「なんで船内で起動させちゃったの…?」とか割と後から色んなツッコミ処も頻出するんですが、観ている内は全然気にならないですからね!!もっと大変なことがスクリーンで起きているから!!
次々船内の人間の血肉を燃料にし、足りない部分はやらなくてもいい回想してまで焚べて燃料に変換しつつトップスピード維持した挙句、後半から強化人間部隊をヘリで投入していくのもやりたい放題すぎて脳汁ドパドパ出ちゃった。
海洋安全局抜け出したデウンが怒りのあまり素手で電灯をぶっ壊すとこ「お前もかよ!?」ってアルファ投入された時より驚いたからね。
ただラストバトルは流石に燃料切れ起こしかけていて、一番面白くない場面になっちゃってたのは残念だったかな……
強化人間の強みって進路にある人体を損壊させながらパワフルに蹂躙する部分にあったので、ラストバトルがそれらの強みが消えたただのナイフアクションに堕していたのはガッカリしちゃったんですよね……
それっぽい場面は多かったものの、全くキャラ立てしてこなかったドイルはどうしてもポッと出の主人公だし、デウンもラスボスとしては迫力不足。
ジョンドゥやアルファは燃料にするにはあまりに勿体ない素材だった気がしてならないんだよなァ……
というワケで、ラストバトルが一番盛り上がらないのは明確な欠点ではあるんですが、血糊・ヤクザ・回想・殺戮を燃やし尽くし「オオカミ狩り鬼つええ!このまま逆らうやつら全員ブッ殺していこうぜ!」なテンションを最終盤まで維持した事実に変わりはなく、サプライズ含めて最高に鬼面白いハッチャケ映画でした。
しかし、ドイルの能力を受け継ぐ子供が実は生きていたり、オオカミ狩りプロジェクトの親玉も健在なままだったりと、かなり続編への意欲満々でしたけどいや…流石にそれは…どうでしょうね……?
確かに面白かったけど、出オチ映画ではあるじゃない!?
あと物語の構造が予告で流れていた『The Witch/魔女 -増殖-』とかなり被っているのも気にかかるんだよな……しかし『The Witch/魔女 -増殖-』やっぱり予告観る度に「Ufotable作画かァ???」ってテンション上がるし楽しみすぎるなァ……今年は2020年以来の韓国映画当たり年かもしれない。