劇場公開日 2023年3月17日

「一本の映画として優れている」【推しの子】 Mother and Children 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5一本の映画として優れている

2023年3月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

一話が90分て、「もうそれ映画じゃん」と思ったけど、本当に映画としてきちんと完成された作品だった。ただの本編のプロローグではない、一本の映画作品として大変良く出来ている。
アイドルの妊娠という衝撃展開(これが衝撃であるということに社会の歪みがある)、その子どもとして転生するファンの2人、「推し」というファン心理が肥大化する現代社会、誰かを推す真摯な想いと危なさが同居する家族生活が描かれる。愛という曖昧な感情は、一歩踏み間違えると気持ち悪い押し付けになるし、殺意へも転じる。多くの人が偶像に特殊な感情を抱く時代、「人ごと」ではないと感じさせる感覚が充満している作品だ。
これはテレビでも放送されるわけだが、このエピソードを一気貫通で90分で見せたかったのはよくわかる。途中で切らずに、一気に見せた方が絶対に衝撃度が高かった。シリーズの一話として申し分ない導入でありつつ、一つの物語としてこれはこれで完結している。アイドルの表の煌びやかさと「推し」心理の暗さは劇場の暗闇でこそ、生きる。この特別感は劇場じゃないと味わえなかった。

杉本穂高