「よくできた紛い物」しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司 サブレさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0よくできた紛い物

2023年8月15日
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鑑賞方法:映画館

見た目や雰囲気は映画クレヨンしんちゃんそのものだが、いざ味わってみるとエグみが強く、渋く、苦い。本作の核心に迫れば迫るほど、その渋み苦みは繰り返し観ているものに襲い掛かる。

まず、本作のおバカパートは大変良い出来だった。お約束でもある風間くんの「それを言うなら○○だろ」や、美人に鼻の下を伸ばすしんのすけとひろしやに始まり、唐突な名古屋弁、字の汚い美人、謎の深キョンなど、何度も何度もくすりと笑った。
少々数が多いような気もするが、テンポやシリアス感を崩さない程度だったので、私は満足している。

しかし、「おバカパート」というよりは「味方パート」がよかったと評するべきか…。というのは、本作の敵キャラの造形にはバカっぽさが微塵も感じられなかった。いやむしろ冗談にしてはいけない迫力さえ感じられたからだ。
これまでのクレヨンしんちゃんはおバカな中にシリアスがあったり、本人は真面目なのにビジュアルがおかしかったり、それが好きだったのだが、本作は敵キャラの造形も言動も思想も何もかもがシリアスよりだった。躊躇いもなく打ち倒せるような敵キャラではなかった。

要するに、クレしんをよく勉強してテンポのいいギャグだけ上手になった一方で、作品の空気感になじまない敵キャラを作った。ということになる。映画を彩る肝心要なのに、残念だ。
しかも、たぶん、ねらってそういう造形にしている。きちんと考えた上で、実在する苦しみを捻じ曲げ、戯画化し、悪役として構築し直している。そういうのは求めていないのだが…

副題でもある手巻き寿司は大したギミックになっていなかった点も残念。
笑いが多くて観ていて飽きなかったことだけが救いか。

サブレ