「「適切な層」への「適切な配慮」がないのがかなり痛い…。」しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5「適切な層」への「適切な配慮」がないのがかなり痛い…。

2023年8月5日
PCから投稿

今年266本目(合計917本目/今月(2023年8月度)5本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))。

 本映画に限っていうと、この映画に「すら」法律論を論じて採点するのも野暮な話なので、採点は分けています。詳しいところ(かつ、解釈が微妙なところ)は後に回します。

 まぁ、いい意味でも悪い意味でもクレヨンしんちゃんである点はかわらず、放送初代ごろのネタもかなりあるので、入っていきやすいほうです。ただ、最近になった足された設定ほかもあるようで(私には見抜けず)、かなりの「ファン」でないとその差は見抜くのは難しいのではないのかな…と思えます。

 ここで問題になるのは、本映画はどう考えても「当時を懐かしむ大人向け作品」ではなく、どう考えても親子連れ作品であるところ(つまり、お子さんが劇場の半分はいるということ)、特定の法律上トラブルが生じやすい点に関して配慮が何もない点が気になりました。なかには細かい指摘もありますが、一方でリアルいじめにつながりかねない点があり、これはどうしたものか…というところです。

 なお、作品の性質上、一般指定だとしてもある程度「下品なシーン」があるのは想定の範疇であり、それは採点上考慮外としています。

 この「親子連れで見に行った場合に配慮がないのではなかろうか」という点に大半つきます(採点外にしていますが、法律上怪しいシーンは後述)。

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 (減点0.6/子供のトラブルでも起こりうる行為についての適切な描写(ケア)がない)

  具体的には、
   ・ 勝手に他人の自転車を乗り回す(占有権の問題)
   ・ テレビゲームの「カツアゲ」行為(不当利得、不法行為)
  ・・ 「犯人隠匿罪」についての解釈(刑法/下記後述)

 …で、これらはちゃんとケアすべきではなかったのだろうか…と思えるところです。特に3番目。「かえって手巻き寿司でも食べようか」ではありません。1番目と2番目についてはいつも書いていることであり、今更というところなので飛ばします。

  (内訳/犯人隠匿罪についての解釈が雑)
 ・ 犯人隠匿罪は、罪を犯した「真犯人」をかくまうことは当然対象になりますが、「検挙」を適正に行う理由から、「真犯人ではなくても、具体的に様相等が報道されそれに該当するもの」をかくまった場合にも成立します(実務上)。これは、「真犯人以外は一応調べて、関係がなかったら帰ってもらえればOKなだけでしかない」という事情によります。
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 (減点なし(実際は、これだけで0.6あたりは引かれる)/実は無茶苦茶だったりする/事務管理と無権代理と未成年者)

 ・ 人助けを行うことを事務管理といいます。財布を拾って交番に届け出るなんていうのがそれです。この事務管理の管理者(例であげたものなら、拾い主)に行為能力を要求する学説、不要とする学説がありますが、4歳5歳の子であれば拾うことは想定できるので、一概に否定もしがたいところです。しかし、何であろうが(必要不要説を取ろうが)その中で勝手に第三者を巻き込んで契約を行ったり「第三者を巻き込む」行為をすると、それは表見代理を満たさないならただの無権代理です。

 ですが、未成年の中でも幼稚園児に対して無権代理の責任を取らせることも無理だとされるので(※)、かといって「4歳や5歳の子に財布を拾わせるな」「人助けなどをしても対外的に第三者を巻き込む構成にするな」は無理な話であり(それが自然とできる子は、もう中学生か高校生あたりで司法試験予備とか行政書士とか取りそう…)、実際に「期待できない」行為です。

 (※) 無権代理には、何らの権限も与えられていないのに「積極的に」代理行為を行って構成されてしまうもの(通常はこっち)と、事務管理の中で発生する無権代理とがあり、参照される条文は同じであるところ、前者と後者とでは微妙な違いがあり(本人はあらかじめ代理人を選定できるのではない、等)、やや微妙です(この点、分けて考えるのが通説)。ただし、いずれにせよ未成年者は通常保護されます(その結果として、消極的に巻き込まれた第三者がどういう対応をとれるのかも微妙)。

 つまり、いつも書いている「事務管理と無権代理」のお話に、「管理者が未成年者」など行為能力制限者の場合の扱いは結構面倒であり、一方で日本は「助け合いの精神」からくるのがこの事務管理ですので(そのうえで、「財布はネコババせず交番に届け出ましょう」としたうえで、特則として遺失物法で上積みで報酬請求権も与えている)、日本では判例や裁判例が極端に少なく、「どういう構成になるのか」すらまともにわからなかったりします(こういうことでもめたことが日本には存在しない)。
リアル日本の判例が何もない以上は、常識的な解釈の元でどのような解釈論を取ろうとも自由ですが、それは明確に書かないと「そういう考え方(考え方というより、「ある学者の本の学説にそう書いてありました」のレベル)なのね」ということもわからなくなってしまいます。

yukispica