「もっと観られるべき傑作」ワース 命の値段 ぱんちょさんの映画レビュー(感想・評価)
もっと観られるべき傑作
極めてオーソドックスなハリウッド演出ながら、冒頭から胸を揺さぶられ続ける。それはこの映画が、あの事件の被害者や遺族が何を感じていたのかを実感させてくれるから。
冒頭から、被害者達の日常とあの事件が(多分)ニュージャージー側からどう見えていたのかを描写する。我々とは違い彼らにとってあの事件は、日常を侵害し取り上げそしてもう二度と返さない、そういう事件だったことが描かれる。
主人公はそうした人生を生きていた人々一人一人に向き合うこととなる。人間。稼ぎを生み出す可能性としての、計算式としての人間ではなく、家族に愛されあるいは疎まれていた人間、けして聖人ではなく過ちを犯し、それでも懸命に人生を生きていた人間として。
大局や天下国家を語る連中がいかほど薄汚れてみえるものか、愛と平等と寛容を語る人々がいかほど尊くみえるものか。ごくごく平静な筆致ながら雄弁に描き出す。
ハリウッド的に合意がどの程度まで得られるのかが焦点となるが、むしろ大事なのはその課程であり一つ一つの合意がなされた事情なのだということも伝わってくる。
傑作であり必見。もっと広く公開されるべきだし観られるべき。アカデミー賞は本来こうした作品のためのものだと思う。
コメントする