「共感覚の少女に救われる優しい物語」きみの色 おひさまさんの映画レビュー(感想・評価)
共感覚の少女に救われる優しい物語
主人公のトツ子は他人を見ると色がついて見えるという少女。
おそらく、音が色に見えるタイプの共感覚の持ち主。実際に存在する能力です。他人の発する声や音を色として感じているのだと思う。
ただ、トツ子はそれを共感覚などと具体的に考えているわけではなく、ぼんやりと不思議だなぁと受けとめている。ただ、世界をそういうものだと優しくおおらかに受けとめている。
この映画はトツ子の見ている優しく美しい世界を、彼女の目線で描いている。
だから、他のふたりの詳しい背後の設定や、心の中の葛藤は作品中にはあまり描かれていないのだと思う。トツ子はそんな所を見ていないから。
ただ、目の前にいる友達を、ただ、そのまま受けとめている。「きみちゃん(ルイくん)の色はきれい」と。
だから、特に友達の問題を解決しようとはしない。彼女はわかっているのだろう。「きみちゃんの色はきれい」だから「たぶん大丈夫」と。
他のふたりには悩みがあるが、トツ子のありのままを受けとめてくれる優しさに、自然と心が癒されていく。問題は解決したわけでは無いが、受けとめて立ち向かえる様子が最後に描かれる。
旅立つルイくんに向かって叫ぶ、きみの「がんばれー!」は、きみが自分自身にも叫んでいるのだと思う。
同じように今の自分と将来への不安を抱えるルイくんと、ありのままの自分を受けとめてくれるトツ子に出会い、立ち止まっていた自分自身に「がんばれー!」と言える強さを持てたのだろう。
祖母に知られずにどうやって退学できたのか、とか、退学できたとしても田舎町の小さなコミュニティで祖母に隠す事ができるのか、などを言うレビューもあるが、きみの祖母、そしてルイくんの母は彼らの悩みも問題も気付いていた様に見えた。知っていて彼らが話してくれるのを待っていた様に描かれていたと思う。
だから、最後のライブシーンで元気な姿を見て、きみの祖母もルイくんの母も喜んでいたのだと思う。
とても良い作品でした。今年見た映画の中でも一番良かったかも。