「現実」きみの色 だむさんの映画レビュー(感想・評価)
現実
日常系アニメ、というジャンルが確立して久しいが、個人的にこのジャンルの最名手である山田尚子監督の作品である。監督らしい青春の瑞々しい切り取り方、アニメ的キャラとリアリティの結び付け方は秀逸だと思う。
穏やかで天然系の主人公・トツ子、思いつめすぎる女の子・きみ、母親に将来を決められた男の子・ルイの三人が話の中心で、その三人がバンドを組み青春を見つけ、心の成長を遂げていくストーリー。
正直、なんでもない話と言えばなんでない話である。けれど、そこに何かキラリと輝くものが感じられる。一応の話の盛り上がりとしては三人のバンドが学園祭のステージで曲を披露する所が山場だしメインビジュアルにも使われているが、話としてはその前の合宿のシーンが重要だった気もする。どこが好きか・盛り上がったかは人にかなり別れるのではないか。
引っかかった最大のポイントは、ルイの心情がほとんどわからないというか何を考えているか理解できなかった。やたら細く描かれているし、女子二人を何とも思っていない様子だし、「実は性同一性障害だった」、とかそういうオチになるのかな、と勘繰ってしまう程だった。自我が無いように見え、しかも周囲(特に女性)の言いなりになる感じ、瀬尾まい子の小説で同じようなモヤモヤを覚えたのを思い出した。
勉強のストレスで音楽にのめりこんだ、という説明があったが、自作の曲を作りつつ多分医学部にも合格してるって凄いな、いや、アニメにそこの現実感は求めていないけども。ストレスのはけ口に音楽を選んだきっかけはもう少し丁寧にやって欲しかった気もする。
きみが学校を辞めた理由とかきみがルイを好いている部分も曖昧にされすぎてストレスに感じた。あんな真面目な女の子が学校を辞めるというのはかなりのエネルギーを発揮しないと無理だと思うのだが、そういったエネルギッシュな描写が殆どないのも引っかかる。
明確に描く事も良し悪しだと思うし、ニュアンスで伝えるのも良し悪しだと思う。このあたりのさじ加減は正直好みでは無かった。
昨今、日本のアニメは隆盛を極めている。新海誠が注目を浴びたり鬼滅の刃や呪術廻戦やゲゲゲの鬼太郎が大ヒットを飛ばしたり、映画館に行ってもアニメ作品が非常に目立つ。その風潮を否定したいのではない、むしろ戦国時代にあってアニメ映画を作るのは非常に大変だろう、と素人ながらに想像する。そんな中、キラリと輝く独自色を持って映画を作り続ける監督は応援したいし今後も観たいと思う。