「主人公たちの苦悩や葛藤がまったく伝わってこない」きみの色 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公たちの苦悩や葛藤がまったく伝わってこない
淡い色彩の美しい絵柄と、悪人が一人も登場しない優しいストーリーには癒されるが、面白かったかと言えば、首を横に振らざるを得ない。
まず、タイトルにもなっている、主人公の「人の色が見える」という能力は、一体何だったのだろうか?
主人公のトツ子は、その能力のことを秘密にしているが、それで悩んでいるような様子はなく、その能力が、生活に役立ったり、支障をきたしたりすることもない。
トツ子だけでなく、バンド仲間の3人は、それぞれに秘密を抱えているのだが、3人が自分の秘密を打ち明ける場面では、他の2人の秘密は現実的なのに、トツ子の秘密だけは何ともファンタジックで、そのギャップに違和感を覚えてしまった。
トツ子の能力のお陰で、何か問題が解決したり、物語が大きく動くような展開もなく、どうしてわざわざこのような設定を導入したのか、最後までよく分からなかった。
同級生のきみちゃんにしても、学校をやめた理由がなかなか明らかにならなかったせいで、共感することも、感情移入することもできなかった。3人の打ち明け話の場で、それが、「良い子を演じることに嫌気が差したから」だということが分かるのだが、その割には、学校をやめた後も、そのことを祖母に内緒にして、良い子を演じ続けていたのはどうしてなのだろう?反抗しているのか、お婆ちゃん孝行なのかが、よく分からなかった。
先輩のルイくんに至っては、受験生なのにバンド活動をしていることを親に黙っていることを悩んでいたのだが、バンドか進学かを選ぶのならいざ知らず、どちらもあっさりと両立させて、めでたく医学部に合格してしまうところには、あまりの優等生ぶりに唖然としてしまった。
物語そのものも、フワフワとしている分、テンポが悪く、バンドを結成して、「さあこれから!」と思っていると、トツ子が修学旅行をサボってきみちゃんを寮に泊まらせたり、雪のために3人で離島に取り残されたりといったエピソードが続いて、一向に話が転がらない。ここで、印象に残るのは、シスターの日吉子先生の「善い人」ぶりばかりで、肝心の3人の結束の強まりのようなものは、今一つ感じることができなかった。
皆で作っていた曲も、何の苦労も困難もなくいつの間にかでき上がっているし、クライマックスのコンサートのシーンも、初心者のはずなのに演奏が上手すぎて、逆に心に響かなかった。
創作活動には、苦悩や努力や葛藤がつきものであり、そうした「産みの苦しみ」があってこそ、作品は輝くと思えるのである。
確かに、苦しみだけで終わってしまうこともあるかもしれませんね。
いずれにしても、この映画では、そうした苦しみがまったく描かれなかったことに物足りなさを感じてしまいました。