「映像の力と、観客が補完するということ。」きみの色 jsさんの映画レビュー(感想・評価)
映像の力と、観客が補完するということ。
それぞれに事情や青春の鬱屈を抱える高校生たちがバンドを組み自己を表現する、というような具合に、あらすじはとてもシンプルです。
この映画にとって重要なのは、アニメでしかできないさまざまな手法を用いた色とりどりで美しい映像表現であり、それが単純なストーリーにも深みを与えています。そして、キャラクターそれぞれの事情や鬱屈があまり深く描かれることはありません。具体的なことはわからないことだらけですがそれがフラストレーションにならないのは、描かれる必要がないからでしょう。観客の殆どはそれぞれの経験の中で皆そのような感情を経験しているはずで、観客自身が勝手に補完するということを計算の上で表現されているものと感じます。必要以上に内面に深入りしないことによって、観客に必要以上にネガティブは感情を生じさせず、気持ちの良い映画体験を生んでいます。それが薄っぺらに感じられないのは、映像の美しさに加えて、キャラクターのいきいきとした繊細な芝居がもちろん大きな要素としてあります。
それにしても、確かめようがありませんが、テルミンの演奏がアニメでこんなに本格的に描かれたのは始めてのことなのではないでしょうか。劇中バンドの楽器編成や音楽もとても面白く、逆に普通のロックバンドものであるかのように見えてしまうポスタービジュアル(演奏シーンの3人)が残念になってきます。エンディング主題歌のチョイスと言い、おそらく一般的に幅広い層への訴求を狙ったものでしょうが、山田尚子監督の名前を知らない人たちにはよくあるバンドものとしてあまり魅力的に伝わらず、山田尚子監督を知っている人たちには何だか山田尚子作品っぽくない感じと受け止められてしまったのではないかと思います。色とりどりの美しい映像表現が感じられるビジュアルにしてほしかったというのは個人的な感想です。
いずれにせよ気持ちの良い映画ですし音楽も素晴らしいので、音響のよい劇場でもう一度観るつもりです。