劇場公開日 2024年8月30日

「きみの色、わたしの色、山田尚子の色」きみの色 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0きみの色、わたしの色、山田尚子の色

2024年9月1日
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鑑賞方法:映画館

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『リズと青い鳥』以来5年ぶりとなる山田尚子監督の長編アニメ映画。
オリジナルとなる新作で描くのは、『リズと青い鳥』や出世作で代表作である『けいおん!』同様、監督の得意とする“青春×音楽”。バンドを組んだ女子二人と男子一人。
思春期を描かせたら右に出る者が居ない繊細な心理描写と現アニメ界随一の映像センス。8年前の重たい題材の『聲の形』も大ヒット。川村元気がプロデュースで山田作品に初参加し、細田守や新海誠に続けるか…?
今年のアニメ映画の中でも注目と期待の一本だが、賛否両論。
“賛”は期待通りの山田作品の声だが、“否”は作風や内容などを指摘する声多々。
しかし、これが山田作品ではなかろうか。

昨今のアニメーションはどうしても、個性が立ったキャラ、メリハリのある展開、劇的な感動などが求められる。作る側もそれを意識し、見る側もそれを期待。人気や大ヒットに繋がる。
『けいおん!』などで“日常系アニメ”が人気を博したのは一昔前。アニメーションで“日常”を描くのはなかなかに難しい。
山田監督はそれを描き続けている。何気ない日常の一コマやナチュラルな姿。『けいおん!』は元より、『たまこまーけっと』はその極み。ずっとこのスタイル。重たい題材を扱った『聲の形』が稀だっただけ。
内容については一理ある部分も。トツ子は何故人の感情が“色”で見えるのか。きみが中退し、祖母と暮らす理由。母親からの跡継ぎに悩むルイ。これらの背景が今一つ描き込み不足。
説明過多な描写は端から描くつもりは無かったのかもしれない。あくまで、3人の青春が織り成すハーモニー。
そうなってくると、内容や作風云々より、感性の好み。これが自分に合うか、否か。
“人の感情が色で見える”というトツ子の設定も独特の感性。『聲の形』でも人の顔に✕印が見えるのと同様に、“青春”という視点を具現化。思春期の複雑な年頃に見たくないもの、その時しか見えないもの。その視点が秀逸。
好みの問題は仕方ない。しかし個人的には、期待通りの山田ワールド。
繊細で自然でありつつ、ふわっと温もり豊か。とにかく終始、心地よかった。あまりに心地よくて、このまま眠りに就きたいと感じたほど。

3人が組んだバンド“しろねこ堂”による劇中オリジナル曲。
きみのしっとり系やミスチルが手掛けた本作の主題歌もいいが、トツ子のユニークな“♪︎水金地火木土天アーメン”。『けいおん!』の“放課後ティータイム”や“ふわふわ時間(タイム)”と通じる青春の可愛らしさ。
トツ子は唯やたまこタイプのおっとりマイペース。
きみは澪タイプのクール美少女。高石あかりが歌声も披露。『ベイビーわるきゅーれ』で気になってから、売れっ子ぶりが嬉しい。
ルイの繊細さと優しさ。テルミンを使うのも目新しい。
3人の友情とも淡い恋とも言える関係。その距離感も絶妙。
“シスター・ガッキー”が昔やっていたというロックなバンド“ゴッド・オールマイティー”が気になるぅ~。さわちゃん先生みたいな…?

3人各々が抱える悩みや感受性。
ネガティブな事ばかりじゃない。
美しさ、明るさ、楽しさ。
それらを全て込めて歌う。今この青春の時を。
別れ。旅立ち。「頑張れー!」のエールも立派な歌だ。出会った喜びと幸せ。

『けいおん!』『たまこまーけっと』の可愛らしさ。
『聲の形』の複雑さ。
『リズと青い鳥』の繊細さ。
本作もまた“らしさ”たっぷり。
これが山田尚子の“色”だ。

近大