「エモくて美麗なシーンを、薄っぺらい脚本、雑な設定で繋ぐ」きみの色 やまちょうさんの映画レビュー(感想・評価)
エモくて美麗なシーンを、薄っぺらい脚本、雑な設定で繋ぐ
周囲の人が綺麗な単色に見えてしまう「能力?」をもつトツ子さんが、ひょんなことからバンドを組んで青春を謳歌してしまうお話。
まず特筆したいのが、柔らかなタッチの線画で描写されたキャラクター達です。大変繊細で美しく自然な仕草で動きます。素晴らしい!
特に主人公のトツ子は、まるでちょっと前の少女漫画に出てくる世間知らず夢みがちな王女様の様で、ロマンチックを絵に描いた様です。
なお親御さんの髪色からして遺伝的に彼女が金髪なのはとても変ですがシスター(学校の先生)含め完全スルーされてるあたり、おそらくファンタジー要素が強い作品なのでしょう。ぼっちざロックのぼっちゃんがピンク髪なのにむしろ目立たない・・・のと同様です(笑)。
人がひとつの色彩で見えてしまうこと、つまり人と違う自分に悩み、ミッション系の高校で神に祈ってるトツ子ですが、綺麗な青い色に見える同性の同級生、きみちゃんに憧れます。
で、その同級生が何故か?学校やめちゃって、彼女が本屋でバイトしていることを小耳に挟んだトツ子は彼女を探しあて、そこに繊細そうでオタクっぽいこれまた少女漫画に出てきそうな美少年と、なんだか良く分からない理由で出会い、自身は大して楽器も弾かないのにバンドするって唐突に発案し、本日会ったばかりの少年も何の抵抗もなく加わるという脚本的大胆さには、ちょっと仰天しました(笑)。
彼らが出会うシチュエーションが、食パン咥えた遅刻寸前のヒロインが角を曲がったら男子にぶつかり、学校の朝礼で転校生の男子に鉢合わせする・・・ってくらい強引なのは少女漫画?の王道なので百歩譲って笑って許します。
しかし、投げっぱなしで脚本に絡んでこない「伏線もどき」やそもそも理屈が通らない「雑な設定」が沢山あり過ぎ、結果として脚本の底が浅くなり非常に残念に思いました。
それらをネタバレしないレベルで箇条書きにします。ちょっと怪しいので、ネタバレ設定にはしときますけど。
・人が色に見えるトツ子さんは、仲間2人が心の奥底で悩んでいたのが分からないくらいの表面的な能力なのか?そもそも綺麗な色が見えるだけだったら彼女のメイン設定にする意味ありますか?
・影平君が古本屋のきみさんに最初固執したのはなぜ?一目惚れかと思ったら結果的に個別の恋愛じゃなさそうだ。そして女性に対してもむしろ社交的で頭が良いのに、ほかに友達がいない理由がよくわからない。
・きみさんが保護者と思われる祖母に断りなく勝手に高校辞められないでしょう。仮に彼女が保護者の署名偽造して退学届け出しても学校からまず祖母に確認の電話連絡くらいありますよ。ここはファンタジーじゃダメ。
・降雪時に基本暖房の無い広い空間はいくら室内といっても氷点下近くになり、暖気するのは難しくありませんか?なぜ石油ストーブのひとつも置いてあげられないのか?実はセントラルヒーティング、もしくは蝋燭がとても暖かいのかね(笑)。
・おそらくAMラジオ局の気象情報受信しようとしてるのにFM受信用のアンテナ動かし調整してしまうメカ音痴ぶり。影平君はそんなボケじゃない。
・関係ないけど画面に虫の歩く影うつってませんでしたか(うちの映画館だけ?)
ひとつひとつのシーンは非常にエモく美しく胸を打ちました。コンサートのシーンとかは特にです。
しかし、「そういう場面を描きたいがために、強引に脚本を書き設定は後付けしました!」って思われても仕方ないくらいの雑さが完成度を著しく下げているのではないか、と正直思います。
期待しててハードル上げすぎちゃったかな、と少し反省してます。
では。