「変わらないものを受け入れるとは、ありのままの自分を受け入れるということ」きみの色 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
変わらないものを受け入れるとは、ありのままの自分を受け入れるということ
2024.8.30 イオンシネマ久御山
2024年の日本映画(101分、G)
ミッション系高校に通う女の子が憧れの同級生と音楽好きの青年とバンド活動を始める様子を描いた青春映画
監督は山田尚子
脚本は吉田玲子
英題は『The Colors Within』で「内なる色彩」という意味
物語の舞台は、日本のとある海辺の街のミッション系高校・虹光女子高等学校
そこに通う3年生の日暮トツ子(鈴木紗由)は、幼い頃にバレエをしていたが、今はその道を諦めて、日々をつつがなく生きていた
毎日、神様にお祈りしては、シスター日吉子(新垣結衣)に悩みを打ち明けるものの、彼女の日常には変化がなかった
彼女には特殊な能力があり、それは他人の色が見えるというもので、その中でも彼女の心を釘付けにしていたのは、同級生の作永きみ(髙石あかり)の放つ「青」だった
ある日、体育の授業にて、きみの投げたドッジボールを顔面に受けたトツ子は、気を失って倒れてしまった
きみに気を奪われてボールを受け損なったのだが、それを誰かに告げるわけにもいかない
その場を取り繕い、きみと二言ほど会話したのち、彼女は気を失ってしまった
それから数日後、登校したトツ子はきみがいないことに気づく
彼女が親しくしていた友人に話を聞くと、どうやら突然学校を辞めてしまい、今はどこかの本屋さんで働いている、ということだった
そこでトツ子は街中の本屋を探し歩くものの、一向にきみの行方はわからなかった
そんな折、トツ子は白猫を見つけ、猫は彼女をどこかで連れて行こうとしているようだった
猫の後を追って路地裏に入ったトツ子は、そこで「しろねこ堂」という古書店を見つける
そして、その店にて、行方しれずだったきみを見つけることができたのである
その場には、離島からやってきた青年・影平ルイ(水戸大聖)がいて、二人の会話に突如入ってきた
二人が音楽の話をしていたことで気になったのだが、そこでトツ子は「私たちバンドに入りませんか?」とできてもいないバンドに誘ってしまう
取り繕うトツ子だったが、二人はその提案に前向きで、それから3人の秘密の活動が始まることになったのである
映画は、特殊能力のような「人の色が見える」主人公を描いていて、彼女自身は自分の色が見えない存在だった
それが明かされるのは後半の話で、それまでは彼女自身の「色」に関しては言及されないまま話は進んでいく
トツ子は自分の気に入った色を持つ人と交流を持つのだが、かと言って彼女が嫌いな色を持つ人物というものも現れない
彼女から見える世界は、どちらかと言えば誰もが綺麗な色を持っていて、その中でも特別惹かれるのが「きみの色」だったというのである
物語は、自分のことがわからないトツ子が自分自身が何者であるかを知るというものだが、結局どのような人間だと理解したのかはよくわからない
色はその人のアイデンティティを表現しているものの、親和性のある色同士が惹かれあったり、属性の違う色に憧れたりと、かなりわかりやすい構造になっていた
きみとルイが会話している際には「きみの色の中にルイの色が混じる」という、かなり直接的な表現になっているが、二人がその後付き合うという流れにはならなかった
それでも、きみの中には確かにルイがいて、それがラストの叫びになったのだと思う
トツ子の色が赤色で、これは青色のきみに憧れを抱いているというところからも想像がつく範囲だと思う
その赤が一瞬だったのは、まだ彼女自身が自分自身のかけらを理解しただけというもので、それが全身に波及する頃には自分が理解できるのかもしれない
とは言え、自分のことを一番知らないのが自分という側面があって、知っている部分を嫌悪しているところもある
そう言った自己嫌悪的な部分を受け入れようというのが本作のメッセージであり、その自分の中にある色は、誰かにとっての憧れであり、ないものねだりに近いものだということなのかな、と感じた
いずれにせよ、かなりスローテンポな内容で、色の話なのに本人の色に言及するのがラストというのはよくわからない感じになっていた
バンドを組む流れもかなり無茶で、あれで結成に至るのは意味がわからない
きみとルイの色の混じり方を知れば、トツ子自身の心に変化が生まれるのかな、と思ったが、どうやらそっち系の属性はなかったようだ
このあたりの女子が女子に憧れるという感覚が理解できて、かつ即物的なものが存在しない世界を許容できれば、この世界観も受容できるのかな、と感じた