「取り替え子」ユー・アー・ノット・マイ・マザー 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
取り替え子
すこしまえtiktok等でバイラルになったkarenがいる。かのじょはフォートワース空港の離陸前の機内で「あのくそ野郎はホンモノじゃない」などと不可解な罵倒を残して機を降りた。その動画が拡散されcrazy plane ladyとしてバイラルになり、シェイプシフターやレプティリアン等々の陰謀論を呼び込んで盛り上がった。
真偽はともかく拡散された動画を見たとき個人的にはまずゴージャスな女性だな──と思った。ブロンド髪をきれいに結い黒いタイトなノースリーブを着てダメージジーンズをはいている。そっちょくに言っていい女だった。たとえば日本の電車内で騒ぎちらかすおばさんを撮ってもこんな絵にはなりようがない。
コンプレックス込みではあるにせよ、あちらではクレイジーな女=karenと定義される女性が、極東のアジア人から見たとき魅力的な佳人に見えてしまうことがある。ならばシェイプシフターとかレプティリアンなんて見分けがつくはずがない──という話である。
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You Are Not My Motherは見た目は母だけど中身は違う母の話。
ネットにあったKate Dolan監督のインタビュー記事を拾い読みしたところによればアイルランドの民間伝承を下地にして愛する者(母親)のドッペルゲンガーをつくりそこに世代間(母娘)のトラウマを絡ませた──とのことで、まさにそういう映画だった。
扱われているのは取り替え子という民間伝承で、赤子をさらって替わりにトロール、エルフ、フェアリー、あるいは何かを置いていく奇禍をさす。
われわれの想像にあるトロール、エルフ、フェアリーとなるとメディアやゲーム等の影響で愛嬌ある生き物なわけだが、伝承では概しておぞましい姿をしており且つ悪意で人をおとしめる悪鬼ともいえる。
Kate Dolan監督にとっての初長編だが映画には良質なホラー空気があった。ホラー空気とは暗くて得体がしれない感じで、さいきん見たので例えるとアントラーズ(2021)やSmile(2022)やSaint Maud(2019)みたいな空気感。
映画としてまあまあだったにしてもホラー空気がいい感じだとホラー空気だけでごはんがすすむくんな映画というのがある。なんつうか浸っているだけで気持ちがいいホラーVive。You Are Not My Motherはそんなホラー空気の上質なやつが感じられる映画だった。
母役Carolyn Brackenの憑いてる感じが怖く、それを娘役のHazel Doupeが怖がり、その怖がり方がうまいので更に怖い。なにしろHazel Doupeの恐怖の表情づくりは圧巻だった。またスザンヌ役のJordanne Jonesがすごいべっぴんでホラー空気内のアクセントとして機能した。
批評家らはザヴィジル夜伽(2020)、アンダーザシャドウ影の魔物(2016)、ホールインザグラウンド(2019)、Ouija: Origin of Evil(2016)、ババドック暗闇の魔物(2014)、レリック遺物(2020)などを引き合いにしているが、じぶんの見た履歴からするとスコットクーパーのアントラーズが近かった。ちょいヘレディタリーぽいところもあった。
かんがみるに、あっちのホラーにはA24やブラムハウスプロダクションなどが一番上にあり、そこからB級までの間にも見過ごせない厚い層があるわけで、ほんとにすごく厚いなと思う。無風な日本と違い、その中間層からこぼれるがごとく新しい才能が次から次へと出てくるわけで、じぶん好みのホラークリエイターを探すのもホラー映画の楽しみ方・醍醐味だよな──と改めて思ったわけなのだった。