「死を題材にしつつも、その中に生や愛情が詰まっている」いつかの君にもわかること　牛津厚信さんの映画レビュー（感想・評価）

余命わずかのシングルファーザーが、この世に一人残される幼い息子のために”新しい親”を探し求める。そう書くと涙なしでは観れない感動モノに思えるが、しかし本作にはこの手のジャンルの定番ともいえる感傷的な音楽や叙情的な演出などの余計な雑味がない。その点、構造的には至極シンプルではあるものの、だからこそカメラは一本一秒を無駄にせず、父親として最期の役目を果たそうとする切実な思いを、これほど丁寧かつ冷静に刻み得ているのだろう。『おみおくりの作法』のパゾリーニ監督らしい視点は今回も健在で、行政サービスや制度を絡めながら、人が避けては通れない死というものをしっかりと見つめる。その探求と考察はいつしか、死を透過して”生や日常を見つめること”にも繋がっていくかのよう。ちなみに父親は窓拭き職人。窓の曇りや汚れを丁寧に除去し、窓を介して人々の暮らしや人生を俯瞰する姿から、彼の心のありようが痛いほど伝わってきた。