「新しいジャンルの映画」ふまじめ通信 kuroroさんの映画レビュー(感想・評価)
新しいジャンルの映画
『あつい胸さわぎ』がとても良かったので、池袋ロサで鑑賞。始まってすぐ、「これは苦手なタイプかも」と思った。さらりとした散文形式で映画が綴られていくが、私が仕事終わりというのもあって、気持ちが散漫になっていく。しかし、中盤あたりの生殖力の強いカバは行き場が失っていくシークエンスから、じわりじわりと持っていかれ、主人公を軸とした、過ぎ去った何気ないエピソードまでもが、いつの間にか、忘れかけていた記憶が急にぬるっと顔を出すように、意味を帯びていく展開に、思わず身を乗り出していた。そして登場人物たちがたまらなくいとおしくなる。新しいジャンルの映画を観たような気がした。いつも手元に持っておきたい本のような映画。劇的な展開も大きな感動もないが、香ばしいお茶を飲んだ時のようなじわーっとした深みがある。この監督にはおかしみの中にも清濁併せもったキリッとした清廉さがある。日常のいつくしみを多くの人に届けたくなる。たくさんの映画館で上映され、たくさんの国の人に見てもらいたい、そんな応援をしたくなる映画だ。
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