「人種差別と闘いながら、王道と大空へ飛び、友情を謳う」ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人種差別と闘いながら、王道と大空へ飛び、友情を謳う
昔も『トップガン』の大ヒットを受けて、似たような航空アクション映画が製作。『アイアン・イーグル』とか、日本では劣化パクりの『BEST GUY』とか。
今回も。アメリカではひっそりと公開され、日本ではNetflix配信のみ。どーせそんなもんでしょ、と思うなかれ。
多少の便乗はあったかもしれないが、実話を基にした興奮と感動の“別機”。
1950年代。米ロードアイランド州ノースキングスタウンにあるクォンセット海軍航空基地。第32戦闘飛行隊=“VF‐32”に転属となったトム・ハドナー中尉。そこで、唯一の黒人パイロット、ジェシー・ブラウン少尉と出会う…。
穏やかな性格のトムに対し、ジェシーの態度は素っ気ない。
他のクルーからも明らかに浮いている。他のクルーも接する事はほとんどない。
が、パイロットの腕は確かなもの。切磋琢磨する内、互いの実力を認めるようになっていく。ジェシーの家族とも交流を持つようにもなり、友情を育んでいく。
死と隣り合わせの訓練を繰り返しながら、遂にその時が来た。朝鮮戦争にアメリカが介入。ジェシーとトムも愛機に乗り込み、敵地に飛ぶのだが…。
実話とは言え(多少脚色はされているだろうが)、王道。
出会い→競い合い→絆を深め合い→出撃…。
クライマックスにはドッグファイトや戦闘シーンが用意されているが、基本人間ドラマベース。それもかなりじっくりタイプ。
演出も脚本もテンポもスローペース故、ちと間延び感は否めない。『トップガン マーヴェリック』のような熱く、エキサイティングな作風を期待すると、瞼が重く…。
それでも、CGを駆使したドッグファイトやクライマックスの緊迫感ある戦闘シーンは見応えあり。配信なのが勿体ない。
映像や音楽は一級品。
主人公二人の絆はドラマチックに感動を呼ぶ。
『トップガン マーヴェリック』からの興味本位でもいいから、見て損はナシ。
でもちゃんと、『トップガン マーヴェリック』とは違う特色も打ち出している。言わずもがな、
『42 世界を変えた男』が黒人初のメジャーリーガーであったように、本作は黒人初の海軍パイロット。必然的に人種差別問題も絡む…。
軍内では人種差別はNGとなっているが、やはりそういう空気は漂う。ジェシーと他のクルーたち、距離を置いているのもそう。ジェシーが一匹狼なのもそう。
訪問地でも、黒人のパイロット!?…と白い目で見られる。(カンヌでエリザベス・テイラーと出会ったエピソードは本当なのかな…?)
自宅周辺では、明らかな嫌がらせ。
それに対し、ジェシーは…。堪え忍ぶ。そういう時代だったのだ。
印象的なシーン。ジェシーが鏡に向かって差別的な発言を繰り返す。これまで自分に向けられた差別発言をメモし、こうやって自分自身にぶつけ、抗う内面的の力を得る。
だが、何も周囲は“敵”ばかりではない。空母内で働く黒人労働者たち。ジェシーが飛ぶ姿に憧れと誇りを持っていた。いつしかジェシーは彼らの“希望”となっていた。
そして、トムの存在。
トムは人種差別者ではないが、意図せずそんな言動をしてしまった事もあるにはある。ジェシーの奥さんに自宅に招かれるも、断る。自分でも気付かず、壁を作っていたのかもしれない。
しかし、ひと度足を踏み入れれば…。快く迎えてくれる。その一歩を踏み出せるか、否か。
欠けがえのないパートナー、友人になっていく。
苦境の黒人に白人が救いの手を差し伸べる。この『グリーンブック』的な設定は、一部では本当に人種問題について描いていないと度々批判浴びるが、ベタでもご都合主義でも私はこういう作品にどうしても心奪われるのだ。
実話が基。知らなかったとは言え、まさかあんなラストになるとは…。
王道ストーリーだから、安直ラストになるとてっきり思い込んでいた。
『オンリー・ザ・ブレイブ』のようなやるせなさと、感動…。
EDの後書き。見捨てない、諦めない。続く交流。それは子~孫世代へ受け継がれている。今も。
ジョナサン・メジャースの熱演。今年は『クリードⅢ』やMCUの新たなラスボスとして初お目見えする『アントマン&ワスプ:クアントマニア』など期待作続々。本作でもその実力はたっぷりと。
『トップガン マーヴェリック』に続き、パイロット役のグレン・パウエル。これは偶然? 狙った?…はさておき、あちらとはまた違う魅力を発揮。
二人が男の絆を体現。
『トップガン マーヴェリック』という超ビッグメジャー機との比較は避けられないが、こちらだってなかなか。
共々、王道と大空へ、人は高揚をさせられ続ける。