「灼熱砂漠のトカゲたち、最後まで行け!」最後まで行く 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
灼熱砂漠のトカゲたち、最後まで行け!
つくづく韓国って悪徳刑事しか居ないのかと思うくらい。
そんな悪徳刑事に降りかかる最低最悪、絶体絶命の危機の連続。
その様をハラハラドキドキのスリルとバイオレンス、何処かブラックな笑いも交えて。
さすがの面白さの韓国オリジナル。知る人ぞ知る2014年の作品。
面白さが受けて各国でリメイクされたらしいが、ここ日本でも。
韓国映画を日本でリメイク。日本映画を韓国でリメイク。
日本と韓国の“リメイク国交”はよくあるが、その出来映えはよりけり。
殊に本作のようなサスペンス/アクションに関してはお隣の国なのにレベル違いを度々見せつけられるが、今回のリメイク挑戦はなかなか気合い入った出来映えだったんじゃないかな。
まさにタイトル通り。最後までダレる事なく見れた。
映画って最初の掴みが大事。本作はそれが巧い。
とことんヤベー状況に追い込まれる主人公。
母親が危篤。妻から電話。
職場からも電話。署に監査が入る。ヤバい一件に絡んでいて、そのリークが…。
また妻から電話。母親が死亡。
また署から電話。早く来いと催促。
もうそれだけで平常ではいられない。比重的には仕事の方へ傾き…。
が、さらにヤバい別の方へ一気に傾く。
豪雨の夜。突然目の前に飛び出してきた若い女は避けれたものの、若い男の方は避け切れず、轢いてしまった…。
男は死亡。
チクショー!マジついてねー!
何なんだ、今日は! もう年末なのに! 最悪の年越しだ!
男は同情の余地ナシ。悪徳刑事の工藤。
汚職は疑いではなく事実で、その上人を轢き殺してしまい…。
挙句の果てに彼は死体をトランクに隠し、先を急ぐ。
検問に引っ掛かり、一悶着起こすも、思わぬ人物に助けられる。
監察官の矢崎。署へ向かう途中。
ここはこの監察官のお陰で乗り切ったが、監察官は署で待っているという。
一時の危機を逃れただけで、結局危機は回避していない。
とりあえず病院へ。妻には呆れられ、葬儀社の説明も上の空。
監査、トランクの中の死体…。どうする? どうする、俺~!?
のっけからノンストップ。韓国映画が基とは言え、邦画としては開幕からのハイテンション。
見る側はこのろくでなし刑事の行く末から目が離せなくなる。
いい解決策を思い付く。いや、実際はメッチャ悪い事なんだけど。
あの死体を母親の棺の中へ。一緒に焼いてしまえ。
韓国オリジナルの時もそうだけど、本当に罰当たり。
ひとまず死体は隠した。
お次は監査。が、意外にも監察官は見逃すという。その時何か意味深な事言ってたけど…。
仕事に戻る。あるチンピラを探す。
嗚呼、またしても神様の悪戯か、悪魔が俺を弄んでいるのか…?
そのチンピラは、俺が轢き殺したあの若い男。
現場には監視カメラ。不鮮明でよく分からないが、捜査が続けば俺に辿り着くかも…?
どうする? どうする、俺!?
そして、決定打とでも言うべきピンチ。
突然の電話。“お前が何をしたか知っている。人殺し”。
目撃者がいた。でもただの悪戯電話かもしれない。
挑発してみたら、その脅しは本物だった。
相手は、まさかの人物だった…。
ダーティーな役柄。哀愁と憔悴と狼狽に翻弄されまくり。
あたふたあたふたぶりが滑稽に笑えてもくる。
岡田准一の風貌から佇まいまで絶品。もうさすがだね。
ちと過剰な演技すらこのろくでなし刑事の愚行っぷりを説得力充分に魅せる。
ろくでなし刑事は彼一人じゃない。もう一人。
監察官の矢崎。
実は彼も悪徳。
中盤は彼の視点から語られる…。
矢崎もあのチンピラを追っていた。
チンピラを“飼い犬”として使っていたが、反抗され噛まれる事態に…。
ある場所に、大量の裏金。各界のお偉いさんや上司も絡んでいる。
その隠し場所は、チンピラの持ってるカードキーと指紋が無ければ入れない。
それをいい事にチンピラは裏切り…。
その裏金がバレたら…。上司から圧。
上司からは目をかけられ、その娘と式を挙げたばかり。
昇進は約束されていた筈なのに、“飼い犬”の裏切りで窮地。
このままでは上司共々奈落の底へ…。
絶対にチンピラを見つけ出さなければならない。
老やくざの人脈を使って、遂に見つけ出す。チンピラのアジトへ。
やっと運が向いてきた。後はこの裏切り者の飼い犬を口封じで殺すだけ。
こいつのせいで危うい立場に立たされた。死ね!
が、隙を突いてチンピラは逃走。夜の豪雨の中を。
矢崎は追い掛けながら発砲。
銃弾がチンピラの背中を捉えた。それが致命傷となり、ふらふらと車道へ。
そこを…。
これで合点がいった。
工藤の検問中、不自然に現れた矢崎。
“目撃者”で本当の“人殺し”だった矢崎は、チンピラの死体を何が何でも奪還する為、工藤を追っていたのだ。
巧みに所属署や工藤の名前を聞き出し、工藤を待ち構える。
が、こいつも俺に歯向かいやがって…。どいつもこいつも。
強行手段。母親の葬式に乗り込み、工藤をボコボコに。工藤の娘を人質に取る。
工藤はろくでなし刑事だが、矢崎も目的の為なら手段を厭わない非情野郎だった。
冷静沈着に見えて、本性を現したら豹変。
追い込まれた八方塞がりと異常さを表す目をピクッとさせる仕草。それすらもゾクッ…。
彼もまた憔悴と狼狽と絶体絶命。加えて、イカれている。
綾野剛のサイコっぷりが強烈。
性格も驚愕だが、その不死身さも。普通なら二回は死んでるよね…?
ゾンビ…? あ、そっか。彼は“亜人”でもあったね。
ろくでなし刑事vsサイコ監察官だけあって、両者の上司もクリーンな刑事ではない。
そんな中、駿河太郎演じる同僚刑事は唯一まとも。工藤と何かと対立するが、ある時全ての事情を打ち明け、力になってくれる。…あ、でもそれも汚職に関わるって事…? お陰で彼の身に危害が…。
本当に唯一まっさらなのは工藤の妻と娘。工藤の愚行のせいで危険が…。広末涼子と娘役だけが“掃き溜めに鶴”。
愚行や醜い争いを見続けられて…。でも一番の悪党は、最後に一番美味しい所だけを持っていったアノ人。圧巻の存在感は誰も敵いません!
話の展開はほぼ韓国オリジナルに忠実。
でも、新たな展開や要素も。
主人公と別居中の妻子との関係、チンピラややくざの絡み、矢崎の描写もより詳しく。
片や葬式、片や結婚式。その対比もユニーク。
年末設定。除夜の鐘が鳴る中、煩悩に満ちた二人が醜く争う。何とも痛烈な皮肉。
年内中に片を付け、来年こそはいい年を迎えられるか…?
老やくざの例え話も印象的。
灼熱砂漠に、トカゲ。ここから抜け出せばいいのに、足をひょこひょこさせながらこの場に留まる。
ここが己の居る場所、己の運命から逃れられないのを受け入れているかのように…。
今、灼熱砂漠にいる二人のトカゲは…?
岡田准一と綾野剛の熱演で魅せる男たちの行く末。
リメイク作品で初ジャンルに挑戦した藤井道人監督。インディーズでもメジャーでも、社会派でもラブストーリーでも本格サスペンス・アクションでも、手堅い手腕。
彼らの向かう先へ、こちらも最後まで行ってやるぜ!