「貴重な証言記録映像」「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち てつさんの映画レビュー(感想・評価)
貴重な証言記録映像
「大川小の悲劇」が「釜石の奇跡」と対照的に注目され、現地にも一度足を運び、説明を聴き、周囲の地形的特徴を他の類似の地域と比べて考えたこともある。生き延びた教師の提案が、他の教師たちの避難方針と相容れず、多くの犠牲者を出してしまったということも知っていた。
映像では、その教師の実名と、保護者説明会に出る前の状態、説明会での発言と保護者たちの反応も目の当たりにすることができた。遺族の検証において、その教師が津波をみた場所が推定され、判決後に遺族の一人が、その教師の思いを推し量るような発言をしていた。事後トークをした弁護士の齋藤雅弘氏に、その教師は裁判のなかで真実を述べたのか訊いてみたが、残念ながらそれはなかったという回答であった。教育委員会側の体制保全のための隠蔽工作に加担してしまったのは、いかにも残念である。まさに確定判決が、現場に限定した過失に留まらず、「平時からの組織的過失」を認定したことにより、津波避難に限らず、いじめや体罰等、子どもへの人権侵害についての学校と行政側の対応責任を訴えかけていることになる。自分自身も学校側であったときのわが身を振り返らなければならない思いがする。第三者検証委員会には、前川喜平氏の姿もみられ、前川氏も事態の解決には寄与できなかったようである。伝承館開館に当たり、参加しなかった遺族の姿勢と、市長の思いが映されていたが、遺族の思いに応える伝承館に進化させていくことが、組織的過失を償う責任の一環でもあるのだろう。いつかまたその伝承館をみに行きたい。
映像ではまた、原告への誹謗中傷や脅迫行為が行われていたこと、そして事後トークでは、関係していた弁護士への殺害事件の報告もあり、遺族及び弁護士共々、命懸けの訴訟活動であったことも知らされ、日本社会における訴訟の権利が必ずしも皆に支持されているわけではない実態も、憂うべきこととして挙げられている。
事後トークではまた、エンディングソングを作詞・作曲した弁護士の吉岡和弘氏の音楽への志も語られていた。弁護団がわずか二人で、緊密に連携が取れ、遺族が他の被災者への聴き取りを代理人並に進めてくれたこと、監督も仲間に加わり易かったこと、そして監督は、校門圧死事件のあった高校の卒業生であったことも語られていた。
黒沢明氏作品と同一題名であることについては、パンフレットの説明で納得できた。
高裁裁判官による現場検証の場面には、『イチケイのカラス』の「職権発動!」が思い出され、原告に寄り添う判決を生み出した姿勢がそこに現れていると考えたのだが、齋藤氏に訊いてみると、地裁裁判官も現場検証は行ったけれど、遺族にとっては不満の残る判決だったということであった。
このできごとについて知ったのは、2011年にいち早く公開された『大津波のあとに』だったことを思い出した。けれども、関連記事を検索すると、その取材には問題があったようである。