「映画も音楽も聖歌も、前進するためにある。」対峙 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
映画も音楽も聖歌も、前進するためにある。
本作は、深刻な事象に光を当て、
登場人物たちの心の奥底を克明に描き出す、
心理劇の傑作である。
オープニングシーンから、
机の配置、イスの角度、ティッシュの置き場所、
といった細部の描写が観客の注意を一点に集める。
これは、単なる写実的な描写にとどまらず、
これから始まる緊迫した状況への予兆として機能している。
カメラは、登場人物たちの表情をクローズアップで捉え、
彼らの心の揺れ動きを正確に映し出す。
眼球の動きや目線の交差といった、
微細な表情の変化は、
言葉を超えたコミュニケーションとして機能し、
観客にステマのようにシグナルを送り続ける。
これは、キャストたちが経験と訓練によって培った、
非言語コミュニケーションの高度な技術である。
登場人物たちの心理戦が、言葉は最低限の分量で、
身体表現によって繰り広げられる。
限られた空間の中で、
彼らは姿勢、頭の角度、呼吸といった身体の細かな動きで、
defenseのアクション、retaliationのリアクション、
互いの心理状態を探り、間、タイミングをコントロールし、
駆け引きを行う。
物語は、4人の人間関係が複雑に絡み合い、
徐々に破綻していく様を描き出す。
それぞれの立場や価値観を持ち、
互いに衝突し、そして理解しようとする。
この過程で、
人間の心の奥底にある醜い部分や、脆い部分が露呈していき、
感情と感情が対峙する時に論理的思考は不毛だという事もあからさまになる。
最後に、
見事なエンターテインメント作品にとどまらず、
人間の心理に関する深い洞察を提供する。
特に、感情をコントロールすることの難しさ、
そしてその重要性が浮き彫りになる。
感情に任せて演技をすることは、時に危険な状況をもたらす。
そのため、俳優は、感情をコントロールし、
役柄に没入するための高度な技術を身につける必要がある。
昨今、スポーツ界でもメンタルトレーナーが重要視されつつあり、
NPBでも2球団が専属トレーナーを起用している。
映画界でもインディマシー・コーディネーターが話題になっているが、
メンタルトレーナーの起用と、
演技の理論と実践を体系的に教習するシステム導入も急務である。