劇場公開日 2023年6月2日

「「出発するのかな?」「出発の音だ。」」怪物 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「出発するのかな?」「出発の音だ。」

2023年6月8日
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鑑賞方法:映画館

監督はまた、家族の話を作り上げた。同じ時間を三つの視点で展開していく物語。その視点は、ときに本人の思い込みも激しく、まったく別の印象となる。黒澤映画「羅生門」のように。劇中、子供をバケモノと表現する場面があるが、安藤サクラも永山瑛太も二人の子役も、バケモノと呼んでいい演技力だった。さらに伏線がいたるところに張り巡らされて考察が尽きない。「豚の脳」「虐待」「廃線」「二人の関係」や、そして「出発の音」の意味するところ。結局、この映画の中の「怪物」は誰だったのか、何だったのか。鑑賞後の感覚は、是枝監督の「三度目の殺人」の時のような、煙に巻かれたような有耶無耶にされたような、つかみどころがない。だけど裏返せば、「怪物」は誰の中にも潜んでいるとも思える。善人とか大人しいとか思われていた人間が、なにかの拍子に急に豹変してしまうような。自分が正義だと信じる者は暴走してしまうことや。ありもしないことが噂となって、さも真実のように捏造され歪められて事実とされてしまうことや。平穏だと呑気にしている日常にこそ、得体のしれぬ怪物は潜んでいるよとでも言いたげな。
ああそうだ、窪田空穂の短歌を思い出した。
「哀しみは身より離れず人の世の愛あるところ添いて潜める」

栗太郎
humさんのコメント
2023年7月6日

すてきなレビューを何回も読ませていただきました。すっーと胸にしみてきます。

hum