「真実の多面性に留まらず、性の多様性に不寛容な日本社会にまで鋭く踏み込んだ意欲作」怪物 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
真実の多面性に留まらず、性の多様性に不寛容な日本社会にまで鋭く踏み込んだ意欲作
ストーリー構成は黒澤明監督の羅生門に似ている。事件を複数の当事者の視点から捉えることで、真実の多面性、危うさに鋭く迫った作品である。それだけではなく、クィアなどの多様性に対する日本社会の不寛容さにまで踏み込んだ意欲作である。
物語は、小学校で起きた担任教師・保利(永山瑛太)の生徒・湊(黒川想矢)と依里(柊木陽太)の喧嘩の真相について、母親、教師、生徒の視点で描いていく。
母親編では、湊のシングルマザー・早織(安藤サクラ)と学校側の主張には既視感がある。父兄と学校の実態だからである。学校側の母親への対応は隠ぺい体質、事なかれ主義であり学校は日本社会の縮図である。早織の対応は、自分の価値観、固定観念の押し付けである。結婚して子供を作って幸せになって欲しいと言った早織への反応、将来なりたいのはシングルマザーと作文に書いたこと、豚の脳の話は、自分は他者とは違うという湊から早織へのサインだと推察するが、固定観念を持つ早織には伝わらない。
教師編では、教育熱心な教師・保利の素顔が見え、事件の真相も明確になる。しかし、組織重視の学校側は保利の謝罪という形で話を収める。
最後は生徒編。固定観念を持つ親、組織重視の学校という厳しい状況で、二人のクィア生徒・湊、依里の複雑な心境と生き辛さを黒川想矢、柊木陽太が巧演している。クィアでない生徒達は、教室のなかで自分達と違うクィアを忌み嫌い排除しようとする。集団で虐める。教室は大人社会の縮図である。
終盤。二人は突然行方不明になる。映像表現から事故らしい雰囲気が漂うが深追いはしない。現実は厳しいという示唆だと推察する。ラストは二人の親密ぶりを描いている。ラストは作り手の願望であり希望である。現実は厳しいが希望はあるというクィアに対する作り手の暖かな眼差しを感じる。本作がクィアパルム賞を受賞した所以だろう。
本作は、真実の多面性と危うさに留まらず、クィアなどの多様性に不寛容な日本社会にまで鋭く踏み込んだ秀作である。
コメントいただきましてありがとうございました😊
以前よりみかずきさんの意気込みというか野望には感心しておりました。そのお心が大事ではないかと思います。選考基準がどうなのかわかりませんが、何かコツを掴まれて再チャレンジあるみ❣️❣️
コツ、というのは選考を有利にする何かがあるのではないかと思ったからです。読む者に感銘を与えてくださるレビューですので是非是非❣️❣️
フォローしていただきまして誠にありがとうございます。
私事ですが、昨年から月一作を目標にに映画館にて鑑賞いたしております。ちなみに今回の「怪物」はテレビのニュースと劇場のチラシを見て知りました。
みかずきさんのレビューを拝読して「このような解釈もあるのかぁ」と目から鱗でした。クィアとか正直よくわかっておりませんでした。
読書と同様に「観た年月」によっても感じ方が異なるかと思いますので、
しばらくは他の方のレビューや他作品を鑑賞してねかせてみようかと思います。
最後になりましたが、この度は非常に良いご縁を結んでいただきましたこと感謝いたします。
今後も評論を拝読させていただきます。
コメントありがとうございます。
お褒めいただき恐縮です、長文を書くことが苦手なので、みかずきさんのようにはとても書けないと常々思っております。
確かに、当事者意識に問いかけている作品だと感じます。噂話や批判、仕事のトラブルシューティング、子育て、思い当たるものばかりです。性の多様化についてもなるほどと感じました、文脈の中で捉えきれていなかったです。
コメントありがとうございました。
こちら2年ぶりぐらいに映画館で映画を観ました。
確かに、君たちは怪物じゃないよ、っていう
エールのエンディングでした。
あるいは、社会に対するメッセージでしたね。
コメント有難うございます。
私は、制作側が意図した上で、解釈を観る側に委ねる作品が好きでして。(で、難解とか言われる。)
最近では「TAR/ター」かな。では。
誰もが程度の差こそあれ、自分の見たいものを見、見たくないものは見ない、自分に都合よく考える、という所がありますよね。母親がまさにそうでしたね。湊が、「お父さんは本当は不倫している時に事故で死んだ」と言ってましたが、母親はそんな事忘れたように振舞っていましたね。「相手の女はダサいニットを着ていた」というのは母親が湊に教えたんだろうと思いました。でも私はこの人、嫌いじゃないです。
こんばんわ^ ^ みかずきさんの優しい眼差しが感じられる素敵なレビューでした。そうですね。多様性に踏み込んだ意欲作。性自認の目覚めでいきなりそれが大きな苦悩になるなんて辛すぎますよね泣 みかずきさんのレビューを読んで、全ての子供にそのままの君がステキなんだよ。と言ってあげたくなりました。ちなみに。。私のレビューは。。鑑賞後すぐのモヤモヤを爆発させてしまいましたw