劇場公開日 2023年6月2日

「怪物探しというミスリード」怪物 ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5怪物探しというミスリード

2023年6月4日
iPhoneアプリから投稿

「羅生門」を彷彿とさせる保護者、教師、子ども達、それぞれの目線から語る三者三様の一つの物語は、"怪物"というタイトルによるミスリードにより意外な着地を見せる。

また、子供は純粋無垢であると信じて疑わない親にとってはボディーブローを喰らうような話となっている。

とある1日をベースに3章仕立てになっているのですが、ナレーションや字幕などの補足はせずに街の俯瞰ショットで「あ、視点が切り替わったな。」と映像で分からせてくれる演出はスマートだし、2章までは"怪物探し"="犯人探し"という語り口で3章が真実。同じく「羅生門」をベースにしたリドリー・スコット監督による「最後の決闘裁判」と似た構成になっていて、現代における社会的なテーマを盛り込む構成としてはこのスタイルはバッチリ合うのかもしれない。

"怪物"とはどこかに犯人がいるに違いないと犯人探しを止められない私達ではないか?と我々観客側に投げかけてくれるようなテーマで、よくある教師による暴力事件に収束していく第2章の終盤まで弱者(子供達)は"被害者"に違いないと思い込み、分かりやすいよくある教師による暴力事件に収束していくこの不毛さ。人間とはそんなに分かりやすくないはずだ。一筋縄ではいかない、複雑だからこそここまで沢山の映画が作られている。この役回りは田中裕子さん演じる校長先生が担っている。
彼女の抱える闇は舞台となる街の中心にある夜の湖のように深く、底がわからない。

この映画はネタバレを伏せながら感想を書くことはとても難しい。良い意味で期待を裏切られる作品だ。是枝裕和監督の真骨頂でもある3章はとにかく子役の2人が最高の演技。ラストシーンに消えていたあるものが暗示するものをどう捉えるか。受け手に投げかけてくれる。まさしくアートのカタチをとった映画。

今の日本を代表する監督になりつつある是枝裕和監督と、超売れっ子脚本家の坂元裕二さん、そして坂本龍一さんというすごい企画で、さすがの川村元気さんプロデュース。
坂本龍一さんの遺作となってしまった本作ですが、体力の限界もありピアノ曲2曲のみの書き下ろしなってしまったようですが、この2曲のハマり方の精度も素晴らしいし、撮影もかなり凝った撮り方をしている箇所がいくつもあり(1章終盤の一連の車のシーンや2章終盤の土砂に埋もれた電車の窓のシーン3章ラストなど)、良い!!!

ヘルスポーン