「すずちゃんグッと大人になりりましたなぁ!」水は海に向かって流れる 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
すずちゃんグッと大人になりりましたなぁ!
別冊少年マガジンに3年前まで連載されて、手塚治虫文化賞新生賞を受賞したほか、各マンガランキングでも上位に位置付けられる田島列島さんの同名の人気漫画を、広瀬すずさん主演で実写映画化。
高校1年の直達は、叔父が暮らすシェアハウスに居候することになり、住人でOLの千紗と出会います。どういう訳か「恋愛はしない」と宣言し、いつも不機嫌そうな千紗に直達は興味を抱き、やがて淡い恋心を抱いていきます。しかし千紗と直達の間には、過去に思わぬ因縁があることが判明するのです。
通学のため、叔父・歌川茂道(高良健吾)の家に居候することになった高校1年の熊沢直達(大西利空)。しかし、どしゃぶりの雨の中、最寄りの駅に迎えにきたのは見知らぬ大人の女性、榊千紗(広瀬すず)でした。案内されたのはまさかのシェアハウス。いつも不機嫌そうにしているが、気まぐれに美味しいご飯を振る舞う26歳のOLをしている千紗を始めとし、脱サラしたマンガ家の叔父・茂道(通称:ニゲミチ)、女装の占い師・泉谷颯(戸塚純貴)、海外を放浪する大学教授・成瀬賢三(生瀬勝久)・・・と、いずれも曲者揃いの男女5人、さらには、拾った猫・ミスタームーンライト(愛称:ムー)をきっかけにシェアハウスを訪れるようになった直達の同級生で泉谷の妹・楓(當真あみ)も混ざり、想定外の共同生活が始まっていくのです。
そして、日々を淡々と過ごす千紗に直達は興味を抱き、やがて淡い恋心を抱いていきます。
「恋愛はしない」と宣言する彼女と直達との間には、過去に思いも寄らぬ因縁があることが判明します。千紗が恋愛を止めてしまった《本当の理由》とは…?
●ここから先一部にちょっぴりネタバレ
直達と千紗の双方の両親がかつて起こしたW不倫という問題に向き合っていく姿が、ふたりのコミカルな掛け合いを織り混ぜながら展開していきます。
直達と千紗への想いは次第に募っていくものの、千紗の恋愛を嫌悪するトラウマに阻まれて、見ている方は常にじれったい想いに包まれました。しかも直達を楓が好きになることで、シェアハウスのなかは、複雑な空気が流れていくのです。
そんなシェアハウスに、W不倫の当事者である直達の父達夫(北村有起哉)が突然やってきて、お互い素性を知らない千紗と普通にあいさつするところが、おかしかったです。 千紗の母親紗苗(坂井真紀)と駆け落ちしたまでしたのに、僅か1年で破局なんて、本当に甲斐性のない男でした。
クライマックスは、直達が誘って千紗が再婚していた紗苗に会いに行くところです。榊家には戻らず、現在は高島吾朗(北村有起哉)と再婚し、吾朗の連れ子と暮らしていました。母と10年ぶりの再会。ここで千紗は変わらぬ母に自分に対する愛を確認し、16歳で止まっていた千紗の時間が動き出すものと思っていました。ところが今回のお泊まりを含んだ長い旅を一緒に過ごしてきた直達との関係は、におわすだけ。若い男女のお泊まりシーンでも、直達は指一本、大好きな千紗に触れようとしないのです。結末は、全部観客にお任せとは、そりゃあないよぉ~!前田監督ぅ~!と心の中で叫んでしまいました。
原作の榊さんは、図太くてたくまし過ぎるキャラなんですが、映画の中の千紗は、繊細で序盤は不機嫌そうな仏頂面で、とっつきにくい、やややり過ぎ感ぎた感のあるキャラでした。原作を読んでいる人なら榊さんを広瀬が演じることに違和感を感じた人も多かったのではないでしょうか。後半にかけて感情を押し殺して生きてきた千紗の心が少しづつ解きほぐされて、表情が豊かになっていく、そんな自然な心の変化を見せつける広瀬の抑えた演技には見入りました。
すずちゃんグッと大人になりりましたなぁ!
とにかく10歳年上で、最初は全く恋愛対象に思えなかった直達の存在により、千紗の心は、解きほぐされていくところが本作の見どころです。
それと千紗に拾われる子猫のミスター・ムーンライト(ムーちゃん)も要所で出演し、なかなかの名演を見せてくれました。