「前田監督の小粋な小品」水は海に向かって流れる AMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)
前田監督の小粋な小品
好きなタイプの良品。
叔父のシェアハウスで生活することになった実直な高校生直達(大空利空)と、そこに住んでいるわけありの美女榊さん(広瀬すず)の物語。彼らを取り巻く癖が強い住人達も絡んで、楽しく描かれる。
トレイラーを見ただけでは設定からして「めぞん一刻」。展開も似てなくもないが、コメディタッチかと思いきや、直達の家族と榊さんの過去が絡んで、少し重めのヒューマンドラマとなってくる。まあ漫画風の強引な設定といえばそうだが、ドラマを描くのだから普通なだけではつまらない。
20代で、すでに人生を諦めたような榊さんが気になる直達は、偶然その過去が彼の家族に関わりがあることを知り、なんとかしようと奔走する。榊さんは、静かに人生を送ることを決めていたが、直達のストレートさに心を揺さぶられ、過去と向き合い出す。まあ王道の、 ありがちな展開だが、優しいシェアハウスの住人達や、直達に想いを寄せる同級生の楓(當間あみ)の味付けもあり、中だるみもなく洋々と物語は進んでいく。展開は早いが、シーン単位ではやや緩やかなテンポ感は小気味良くて観やすい。
直達役の大空利空が、かわいい高校生がハマり役。榊さん役の広瀬すずは、演技も印象も文句のつけようは無いのだが、どうしても妹キャラがチラついて、最後までちょっとした違和感が残った。「流浪の月」ではあまり感じなかったが、本作ではガチガチの"お姉さん"設定だったので、余計目立ったか。まあ観る側の問題ではあるのだけど、人気女優はなかなか難しいですね。
周りの演者さんも個性的なキャラを担いながら、重い設定を暗くしないようにうまく盛り上げていたと思う。怪しげな占い師泉谷を、戸塚純貴が「変な人だが真面目」な役として好演。変な人はなかなか難しいが、違和感なくストーリーに溶け込ませているのは、たいしたものかと。
本作のタイトルは、堰き止められていた川の水が、ちょっとした隙間から再び動き出すように、止まっていた時間が前に進み出すというイメージだろう。まさにそのままの話ではあるが、映画のひと時を、朗らかに愛でたい気分のときに、お勧めできる作品だ。