劇場公開日 2023年12月8日

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「【”赦して。と認知症になった妻は言った。”ギャスパー・ノエ監督が冷徹な視点で或る夫婦の老いと死をドキュメンタリータッチで描いた作品。フライヤーには”ギャスパー・ノエの新境地”と惹句があるが・・。】」VORTEX ヴォルテックス NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5【”赦して。と認知症になった妻は言った。”ギャスパー・ノエ監督が冷徹な視点で或る夫婦の老いと死をドキュメンタリータッチで描いた作品。フライヤーには”ギャスパー・ノエの新境地”と惹句があるが・・。】

2025年6月12日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

難しい

■心臓病を患う映画評論家(ナント!ダリオ・アルジェント)は認知症の元精神科医の妻(フランソワーズ・ルブラン)と二人暮らし。
 妻の症状は進行し、徘徊が始まり、離れて暮らす薬中毒の息子ステファンに介護付き老人ホームへの入所を提案されるが、評論家はキッパリと断る。
 だが、ある日、評論家は発作を起こして倒れてしまう。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・ご存じの通り、ギャスパー・ノエ監督と言えば、「アレックス」で”モニカ・ベルッチに何してくれるんだ!”とムッチャ腹が立った、バイオレンス&セックスを描き、「CLIMAX クライマックス」では、クスリトリップ爆音を披露し、「ルクス・エテルナ 永遠の光」では、更にそれを増幅させた強烈な世界観を炸裂させた人である。

・だが、今作では、冒頭に“心臓の前に、脳が壊れた全ての人に”というテロップが流れ、その後、老いた夫婦の姿が二分割した画面で夫と妻の夫々の目線で描かれて行くのである。まるで、ドキュメンタリー映画の様に。

・そして、評論家の夫が発作で倒れた際に、妻は気づかずに寝ているのだが、異変に気付きその時だけは通常に戻り、息子を呼び救急車で病院へ搬送してもらう一連のシーンは、この映画にもある”ギャスパー・ノエの新境地”という惹句が思い浮かぶのである。

■だが、ここからが、矢張りギャスパー・ノエ作品にブレなしだったのである。父が亡くなっても息子はクスリをやっているし、妻は神に謝罪しながらガス管を開けてベッドに横たわるのである。
 そして、妻の葬儀のシーンも淡々と映されるのである。

・ラスト、主のいない夫婦の部屋からは、物が次々に無くなって行くのである。そして、夫婦の若き日からの写真が数枚映されて、エンドロールを迎えるのである。

<今作は、ギャスパー・ノエ監督が冷徹な視点で或る夫婦の老いと死をドキュメンタリータッチで描いた作品なのである。新境地と言えば、そう見えなくもないが、根本は前作までと変わっていないのではないかなあ、と思った作品である。

 当たり前だが、人間は徐々に老いて行き、いつかは死ぬ。ギャスパー・ノエ監督は、前作までは生を歪んだ形で生きる若者を描き、今作ではその終焉を冷徹な視線で描いたのではないかな、と思ったのである。

 今作は、ギャスパー・ノエ監督なりの人間への愛しみを表した作品だと、私は思いました。>

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