「意外に飽きない」VORTEX ヴォルテックス SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
意外に飽きない
面白かった。
エンタメ的な意味ではなく、考えさせられた、という意味で。
はじめに、「心臓が壊れる前に脳が壊れるすべての人へ」みたいなのが出てくるけど、認知症になる人だけでなく、どんな人もこの映画を観る意義はあると思う。
ただ、まだ死や近親者の介護を意識することが難しい若者には退屈な映画なのかもしれない。
「現実の死」とはこういうものだ、ということを理解させることが主目的の映画だから、演出、ドラマチックな展開、意図的なストーリーは極力排除されていて、ドキュメンタリーのようになっている。
それでも飽きずにみられるのは、二者の視点が左右の二分割で表示されていて、両方を同時進行で把握するためにあわただしいからだ。ラジオかテレビから流れてくる「死」についての解説もあわせれば、三つのことを同時に理解しながら鑑賞しなければならない。
認知症の老婦人の行動やそのほかの登場人物の行動もはらはらさせられたり、「あー、だめだよ」とか思ったりして、感情が動かされる。
「現実の死」はこうだ、と示されるものについて、「現実はしょせんこんなものだよな…」とか、「こんなふうに死にたくないな…」などといろいろ考えてしまう。
意図的なストーリーにならないようにしているとはいえ、「我々は薬に支配されている」というテーマだけは分かりやすく示されている。最後に老婦人が薬を集めてトイレに流したのは、その不条理に対する抵抗だろう。
また、老夫婦の墓(?)に対して子供が、「ここがおじいちゃん、おばあちゃんの新しい家なの?」と問うたことに対して、「いや、家ではない。家は生きている人のためのものだ」と父親が答えたのも、子供にそんな言い方しなくても、と違和感を覚えるところだが、監督が何かしら言いたくてこんなセリフになってるんだろう、と思わせる。
この映画では、現代では医療の発達、宗教的世界観の消滅、効率化された社会システムなどによって、老人や死者の尊厳が失われている、というようなことを言いたいのかなと思った。
病や死というものを、無い方が良いもの、負でしかないもの、というとらえ方しかできない現代の価値観は、言われてみれば単純すぎるし未熟な世界観なんだなと思う。