劇場公開日 2023年12月8日

  • 予告編を見る

「ギャスパー・ノエの本質」VORTEX ヴォルテックス シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ギャスパー・ノエの本質

2023年12月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

別のつぶやき投稿で
まさかあのギャスパー・ノエ作品で泣かされるとは…
今まで通り実験的ではあるが、まさに『ファーザー』の夫婦版であり、人間の狂気ではなく普遍を描いた作品になっている。
一体どうした?、今までのギャスパー・ノエ
と述べたのだけど、私の本作の感想はほぼほぼこれで全てです。

でも個人的には非常に刺さったので、もう少し覚書き程度に書き残しておきます。
一応ネタバレはありますが、本作の場合ネタバレなどよりテーマが重要なので鑑賞の弊害にはならないと思います。
まあ個人的に何が刺さったのかというと、人生も2/3を過ぎたら誰しも自分の死に際位考えると思うのですが、本作の場合も上記した『ファーザー』の様に、ある老夫婦の死ぬまでの数日間か数週間か数か月間の記録映画の様な作品になっています。
映画.comの簡単なストーリーも紹介しておくと
「心臓の持病がある映画評論家の夫、認知症を患う元精神科医の妻、離れて暮らす息子ステファン。古いアパートメントで穏やかに暮らす老夫婦だが、日常生活に支障をきたすようになった妻と、ステファンに提案された介護ホーム入りを頑なに拒む夫の人生は、静かに崩れるように終わりの時へと向かっていく。」
これを読むとまさしく『ファーザー』の夫婦版ですが、このちょっとした違いが多くのシニア階層の観客には身につまされる様にも思えます。
私は母親と息子ですが老々介護という面は同様であるので、様々なシーンで恐怖を感じていました。普通の当たり前の“老いる事の残酷さ”を描かれいるだけでもそれが恐怖となるのです。

本作の特徴も書いておくと、本作の殆どが左右2画面で構成されていて、一部マルチ画面の作品は今までにも多々ありましたが、全編ほぼ2画面というのは初めての体験でした。なので視覚情報量が多過ぎて最初は慣れませんでしたが、途中からはあまり気にせず見れるようになっていましたね。
あと『ファーザー』の時も感じたのですがヨーロッパの古いアパートメントの構造がよく分からないのですよ。入り口や廊下などは狭いのにやたら部屋数も多くキッチン・バス・トイレ・バルコニーなどがどのような配置なのか画面を見ているだけでは全く把握できなくて、2画面で二人が歩き回っているのに全く出会わない時もあり、これも敢えて2画面で行う事の効果なのかも知れません。
画面と画面の間の隙間が凄く重要な役割を果たしている様にも思え、愛情とは関係のない個々の人間としての隔たりを表していた様にも感じられました。
(余談ですが、本作パンフレットにアパートメントの部屋の推測見取り図が載っていたので、私と同じように感じていた人もいたのが分かり嬉しかったです)

本作で今までのギャスパー・ノエらしさを敢えて探すなら、大事な会話中に執拗に(現実では当たり前の)孫の遊ぶノイズを強調していたり、タイトルの“ヴォルテックス”(渦)を詰まったトイレに異物を入れ流れない渦で表現し、これは結局人間の人生(死に際)に対する比喩表現でもあった様な気がして、この辺りもノエらしさの様な気がしましたね。
結局2画面構成も、敢えて視線を合わせない方法論で、美術表現で言うと“キュビズム”に近い表現方法を実験した様に感じられました。

コメントする
シューテツ